基本的人権とは何か?権利獲得の歴史と思想を解説。試験やレポートにも!



問:基本的人権とは何か、150字以内で説明しなさい。




ダメな解答例:
基本的人権っていったら、基本的な人権だよ。人権っつーのはあれだな。人の権利だな。






解答例:
基本的人権とは、人間が生まれながらにして当然に持っていると考えられる基本的な権利のことである。近代初頭では、思想の自由・信教の自由などの自由権を意味したが、20世紀になって、自由権を現実に保障するための参政権や、国民がその生活を保障される生存権などの社会権をも含めていう場合が多くなった。(143字)





《基本的人権としての自由権》

 基本的人権は人間が当然に持っている、国家権力によっても侵されることのない基本的な諸権利である。近代に入ってアメリカ合衆国の独立やフランス革命によって、個人の自由を守ることが国家の任務であるという思想(自由主義)が強まり、国家はそのような人権を守るために設けられるものであるから、国家はそれらの人権を侵すことはできない、だから人権は国家以前のものであると考えられた。英国の権利章典(1689年),アメリカ独立宣言(1776年),フランス革命の人権宣言(1789年)などはその古典的表現で,宗教・良心・思想・学問・言論・出版・身体・集会・結社・居住・移転・職業選択の自由,財産・住居の不可侵,通信の秘密や,さらに法定手続の保障や不法な逮捕・抑留・拘禁からの自由など,国家権力からの自由(自由権)を内容とするものである。
 しかし逆に考えれば、これらの宣言が明文化される前は、国家による人権侵害が横行していたということになる。不満が募っていたからこそ革命や戦争が起きるのである。フランスのルイ16世による絶対王政などはわかりやすい例であるが、国家権力の恣意的な判断によって国民の自由や生命が脅かされる危険性が常に存在していたのである。
 そのような時代背景を考えれば、人権思想の中でも自由権への渇望が早期にやってくることは妥当に思えるだろう。王様の機嫌一つで死刑になるかもしれない、国教に反する学問に取り組んだり、政府の政策に難癖をつけたりしたら牢屋にぶち込まれるかもしれない、といった状況では到底安心して生活することはできない。
 自由権は「国家からの自由」ともいわれる。国家から不当な支配を受けることからの解放が第一義的に望まれたのがこの時代である。イギリスの清教徒革命・名誉革命、アメリカの独立戦争、フランス革命などを契機に、各国で自由権獲得の大きな波がやってくる。アメリカの独立宣言(1776)やバージニア権利章典、フランス人権宣言(1789)などの形で自由権の保障が明文化されることとなった。

《基本的人権としての参政権》


 戦争や革命によって自由権を民衆に取りもどすと同時に、一部の人間に権力が集中して暴走することを避けるために、権力分立の形を目指すことになった。分け方は国によってさまざまであるが、議会・行政・裁判所といった形で権力を分立させ、抑制と均衡(チェックアンドバランス)が機能することが大切だとされた。
 中でも議会は、選挙を通して国民によって選ばれた代表であり、立法権等の強い権限をもつ。問題は、その議員を決める選挙に参加できる国民が限られていたということである。具体的に言うと、参政権は金持ちのブルジョアジーに限られていた(選挙権の付与に納税額などの条件が付いている選挙を制限選挙という)。彼らは市民革命の段階で暴君打倒に大きな貢献をしていたので、議員を選ぶ権利を得ていたのである。一般の労働者にとっては、革命後も政治参加は非常に難しいことであった。
 更に悪いことに、18世紀後半からは産業革命によって労働者の仕事が機械に代替されていくこととなる。失業者数は激増し、労働者の不安は募った。自分たちの仕事を奪う機械を憎み、ラッダイト運動(機械打ちこわし運動)を起こしたりもしたのだが、それは根本的な解決にはならない。破壊者が逮捕され、資本家が新しい機械を買えばそれで終わりだからである。そして、その惨状を政治の世界で議題に上げることすらできない。参政権を持っていないということがいかに深刻な事態を招くかということを労働者たちは痛感したのである。
 参政権は「国家への自由」ともいわれる。参政権を持つことは国家の在り方を自分たちで決める、民主主義の基盤なのである。労働者たちはチャーチスト運動を起こし、参政権を要求した。イギリスに始まり、フランスやドイツにも波及して大きなムーブメントとなって、徐々に誰もが有権者になれる普通選挙が確立していったのである。


《基本的人権としての社会権》


 18―19世紀において、人々は国家に対して自由になることを望み、それを実現してきた。しかし20世紀に入ると様子が変わってくる。人々は人間らしい生活を保障するように、国家による積極介入を求めた。具体的には、競争社会の結果として生じた経済的弱者に対して、人間らしい生活に足る救済を施すことを国家に求めたのである。
 政府の経済活動への介入は結局のところ混乱と浪費をもたらすだけで,経済の健全な発展にはむしろ害であるという考え方が18―19世紀には支配的であったが、自由競争による資本主義経済をベースにすれば、当然競争に敗れる者も存在する。競争が進むほどに貧富の差は拡大し、事業を維持できなくなれば倒産・失業する。
 人々は自由を求め、それを実現したのであるが、自由はユートピアではない。自由であるがゆえに直面する問題が存在したのである。競争に敗れ、失業した人々は、社会権的な発想から国家に助けてもらうことが必要になったのである。
 社会権は「国家による自由」ともいわれ、人間らしい生活の為に国家による介入を求める権利である。社会権を初めて明文規定したのはドイツのワイマール憲法(ヴァイマル憲法)であると言われている。ここでは人間たるに値する生活を保障する生存権を軸とした社会権が規定されている。それと同時に「公共の福祉」の概念も打ち出され、経済活動は何をやっても良い訳ではなく、国や社会全体の利益の為に経済活動の自由に制限をかけることも認められたことになる。強者の活動に制限をかけつつ弱者を救済して格差を緩和する仕組みを規定したのである。


《日本国憲法と基本的人権》


 明治憲法は、天皇主権の原理に立脚し、天皇が神の権威に基づいて日本を統治するというスタンスで作られているので、国民も天皇の統治に服する「臣民」と考えられ、本来的な意味での人権は認められなかった。また、外国の人権宣言の影響を受けて、信教の自由、言論の自由、集会・結社の自由、居住・移転の自由、人身の自由、住居の不可侵、財産権の不可侵などを保障する規定は明治憲法にもあったが、法律でそれらを制限することが許され、実際に法律によって制限された。(法律の留保) また、統治権の総攬という形で立法・司法・行政の三権が天皇に集中させることが可能であったため、統治者の都合次第で法律を変えてしまうことも可能であった。
 それに対して日本国憲法は、基本的人権の尊重をその根本原理とし、その第3章「国民の権利及び義務」で、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」(憲法11条・97条)としてこれを保障している。
 自由権としては精神的自由権、人身の自由、経済的自由権に分けることができる。精神的自由権とは、国家権力から個人の精神の解放を保障する権利で、具体的には、思想および良心の自由(憲法19条)、信教の自由(憲法20条)、集会・結社および表現の自由(憲法21条1項)、学問の自由(憲法23条)、検閲の禁止・通信の秘密(憲法21条2項)が規定されており、明治憲法下であったような思想のために罰せられるということはなくなった。(ツイッターで政治家の悪口を言ったくらいで逮捕されたりはしない。これは当たり前のようでとても恵まれた環境である。) 人身の自由としては、奴隷的拘束および苦役からの自由(憲法18条)と法定手続の保障(憲法31条)、および被疑者・刑事被告人の権利(憲法37条)が保障され、厳しい要件を定めて国家権力の濫用を制限している(憲法32条~39条)。戦前には警察も含め行政による強引な介入や脅迫が横行していたので、これらの権利が憲法に規定されたことは大きな進歩である。 経済的自由権には、職業選択の自由(憲法22条1項)、財産権(私有財産制)の不可侵(憲法29条)のほか、居住・移転の自由、外国移住の自由、国籍離脱の自由(ともに憲法22条)がある。
 国民が政治に参加する権利である参政権も規定された。議会議員の選挙権・被選挙権のほか、直接民主制的諸権利や請願権も規定されている。

 また、日本国憲法は新しく社会権を規定している。生存権、教育を受ける権利、勤労の権利などがこれである。まず、生存権の保障として、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(憲法25条1項)を規定している。次に機会均等な教育を受ける権利と義務教育の保障が規定され、小・中学校の9か年の義務教育についてこれを無償としている(憲法26条)。また、生存権の実質的な保障のためには勤労の権利の確保が必要であり、憲法で規定(憲法27条)するとともに、国家は労働の機会提供について、職業安定法、雇用保険法、労働基準法を設けて勤労条件に関する基準を定め、児童の酷使などを禁止している。なお、権利と同時に義務を負うことをも規定している。更に、使用者の経済的優位に対抗して契約の実質的平等を確保するために、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利」(憲法28条)を保障している。勤労者の団結権、団体交渉権、団体行動権(争議権など)を労働三権という。

※ワンポイントアドバイス

基本的人権とは何か、といわれると意外と答えに詰まるのではないでしょうか。用語の意味をしっかりと抑えつつ、時代背景や変遷にも注目してみましょう。人権論は法学の対象になることが多いですが、経済思想や政治思想と合わせて考えるとより理解が深まると思います。(人権獲得の歴史と小さな政府・大きな政府の議論を照らしてみてください)


※追記

ここまで読んでいただいてありがとうございます。
学びがあったと思っていただけましたら、SNS等でシェアしていただけますと幸いです。

また、現状としては読者の方がどういった点を解説してほしいのか、どういったテーマを掘り下げてみたいのかということがあまりわからないまま記事を書いています。
ご意見やリクエスト等、コメント欄に打ち込んでいただけないでしょうか?
「こういうことがわかりました」「こういうことが難しかったです」といったアウトプットの場にしていただいても構いません。
よろしくお願いいたします。

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