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001「最果ての季節」涙に溺れた境内は、まるでこの世のものではないみたいに瞬いて見えた。
おしまいへ向かうお祭りのにぎやかさに、幼い頃、わたしは耐えきれずによく泣いていた。
境内を照らす提灯の橙色。屋台から立ちのぼる、ほろ甘い匂い。色とりどりの浴衣を締める後ろ帯。裾からのぞく、かかとが残す下駄の音。
食べかけのわたあめは、買ってもらったばかりのおもちゃの指輪をべとつかせた。夏の夜はそわそわとわたしの鼓動を高鳴らせ、さざめきは光に溶けて無数の影を生んだ。揺れうごく大人たちの背中は遠く、袖口を掴もうと伸ばした手のひらは、汚れるから、と眉間をしかめられた。
盆踊りの笛の音や、高揚した人々の話し声。
やがて、確実にこの楽しい時間は終わってしまう。友人たちは家へ帰り、わたしはひとりで布団へ入らなければならない。
さざめきをいくら耳の奥へとじこめようとしてみても、せつなさがこみあげてくる速度にはかなわなかった。
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1,101字
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学生時代にとある公募で一次審査だけ通過した小説の再掲。
まさかのデータを紛失してしまい、Kindle用に一言一句打ち直している……
小説「最果ての季節」
300円
❏掲載誌:『役にたたないものは愛するしかない』 (https://koto-nrzk.booth.pm/items/5197550) ❏…
「星屑と人魚」の冊子制作費に活用させていただきます!(毎年、文学フリマ東京にて販売しています)