005「最果ての季節」わたしの容姿は、あまりにも四時に酷似しすぎていた。
お母さん。
都子さんを、そう呼んだことは一度もない。旅館の仲居さんたちも、女将さんか都子さんと呼んでいたから、それがあたりまえなのだと別段気にもとめなかった。
でも本当はそこに、都子さんの女としてのせめてもの意地があったのかもしれない。四時の子であるわたしに、彼女は自分をお母さんとは呼ばせたくないなかったのかもしれない。
いくら太陽の下にいても、赤くなるだけで焼けることのない皮膚。骨ばっていて、青く血管の浮きでる腕や腿。ふと気が付くと、都子さんはいつもわたしを見つめていた。それを勘違いして、彼女の元へと駆けより、抱きついていたわたしのことを、都子さんはいったいどんな気持ちで抱きとめていたのだろう。
ここから先は
1,029字
学生時代にとある公募で一次審査だけ通過した小説の再掲。
まさかのデータを紛失してしまい、Kindle用に一言一句打ち直している……
小説「最果ての季節」
300円
❏掲載誌:『役にたたないものは愛するしかない』 (https://koto-nrzk.booth.pm/items/5197550) ❏…
この記事が参加している募集
「星屑と人魚」の冊子制作費に活用させていただきます!(毎年、文学フリマ東京にて販売しています)