数学基礎用語(確認)
この『数学事始め』で使われている数学用語や記号をネット検索してもらえれば済むことなのですが、途中から読んでいる人は困ってしまうことがあると思い、今後もよく使う数学基礎用語および記号を確認しておきます。
※ 集合のところに参考記事を加筆しました。(2022.8.19)
定義する・・・意味を定めること
定義(テイギ)・・・定められた意味
公理(コウリ)・・・基礎となる要請
真(シン)・・・正しい
偽(ギ)・・・正しくない
命題(メイダイ)・・・真偽が判断できる主張
定理(テイリ)・・・真の命題のうち大切なものに名付けられる言葉。一般的には真の命題を定理と呼んでいます。(あまり気にすることはありません)
命題は "p ならば q" の形で表されます。必ずしもそうではありませんが、この形で言い換えることができます。
例 命題 二等辺三角形の底角は等しい。
この命題は "二等辺三角形ならば底角は等しい。" と言い換えられます。
p ならば q を記号で p ⇒ q と表現します。このときpを仮定(前提)、qを結論といいます。
命題p ⇒ q が真のときに、pをqであるための十分条件、qをpであるための必要条件と呼びます。
もしも p ⇒ q も q ⇒ p も真の命題のときはpをqであるための必要十分条件といいます。もちろんqはpであるための必要十分条件です。
p ⇒ q も q ⇒ p も真のときは p ⇔ q と表現し、pとqは同値(ドウチ)であるといいます。必要十分条件よりも同値という言葉の方が使われます。
命題 p ⇒ q に対して、命題 ¬q ⇒ ¬p を元の命題の対偶(タイグウ)といい、元の命題と同値な命題です。記号¬は否定を意味し、¬qはqでないということです。文字の上に横棒を引いて否定を表したりもします。
例 命題 6の倍数ならば2の倍数である。
この命題の対偶は 2の倍数でないならば6の倍数でない。
集合・・・ものの集まり
注:中高の数学を扱っている中はこれで何の問題もないのですが、集合論を学び進めると "何が集合か" ということが問題になり煩わしく感じます。そのため集合という言葉を使うときに「素朴な意味での」などと付け加えたりします。
元(ゲン) (または 要素)・・・集合を成り立たせている一つ一つのもの
集合をA、その集合の元をaとするとき、記号 a∊A で a は集合Aの元であることを意味します。集合は大文字、元は小文字で表現されることが多いです。
集合Aが集合Bにスッポリ含まれるとき、記号でA⊂Bと表現します。このときAをBの部分集合といいます。
もしもA⊂BかつA⊃Bが成り立つときは、2つの集合A,Bは等しいといい、A=Bと表現します。
注:数式と同じ記号=を用いるので注意が必要ですが、中高の数学ではほとんど気にすることはありません。大学以降の数学で一度ミスれば自然と気にするようになります。
(加筆)シリーズ15の2「集合」では、集合の表現の仕方も書いています。
命題 p ⇒ q に対して、条件pを満たすもの全体をP、条件qを満たすもの全体をQとするとき、次のような関係が成り立ちます:
p ⇒ q(真) ⇔ P⊂Q.
命題を考えるときに集合を利用するとかんたんなときもあります。これは使って慣れるものだと思います。
数の集合はよく使われるので、次のような記号がよく使われます。
ℤ:整数,ℚ:有理数,ℝ:実数,ℂ:複素数
整数・・・0, ±1, ±2, ±3, …
有理数・・・分母分子が整数である分数で表される数
実数・・・中学数学で学ぶ数全体、直観的には数直線上の数全体
複素数・・・高校数学Ⅱ以降に登場します。
注:ℕで自然数を表しますが、自然数というとき0を含めることもあるので私はほとんど使いません。自然数が正の整数のときは$${\mathbb{Z}_{>0}}$$という記号を用い、0を含む正の整数のときは$${\mathbb{Z}_{\geq 0}}$$と表します。
注2:この記号の他に太文字で表すこともあります。上のような表記は板書で有効だからだと思います。
ちなみに ∴ (therefore) や ∵(because) は板書記号なので論文や専門書では使われません。なお、中高生が受験で使っても減点しないと思います。本質的ではないからです。
任意(ニンイ)・・・any, all などの日本語訳(どれでもいいの意)
数学用語ではないのですが、よく使うので最後に載せておきました。何度も辞書を引いた言葉ですが、いつの間にか慣れていました。
高校数学で学ぶ、集合と命題は数学する上での基礎用語です。これをテストに出してしまうので、必要条件という用語はテストのためのものだと勘違いされてしまっています。
大学以降の数学では集合と位相は基礎用語になります。
尊敬している数学者の一人は「位相は語学のようなものだ」とおっしゃっていました。▢
補遺
実数については大学で学ぶ微積分の教科書をご覧ください。初学者が深入りすると泥沼にはまるので、高校数学までは上の説明で十分です。
それでも気になる人のためにかんたんに説明しておきます。
小学算数以来学んだ数には大小関係があります。
でも中3数学で$${\sqrt{2}}$$を学び、有理数でない数があることを知ります。実際は円周率もそうなのですがあまり認識されていません(※1)。
ここで小学算数以来考えてきた数直線に穴があることに気づきます。この穴を埋める数が実数で、これによって数直線のどこにも穴がないことになります。この約束事を数学的に考えたのが、デデキントの切断やカントールのコーシー列による完備化というものです。デデキントの方法は微積分の本にたいてい書かれています。カントールの方法は位相の知識が必要になるので、別の本に書かれていることの方が多いと思います。
デデキントの方法は直観的で分かりやすいのですが、演算を定義し難いのが傷です。カントールの方法は演算を定義しやすいのですが、位相の知識を得るのが易しくありません。
実数が微積分の本に書かれているのは、実数の連続性が微積分に深く関係しているからです。高校数学の微積分は実数の連続性を仮定して組み立てられています。だから中間値定理や平均値定理は当り前にしか思えません。▮
※1 円周率が有理数でないことを証明するのは易しくないからです。$${\sqrt{2}}$$が有理数でないことを証明するのはそれほど難しくありません。
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