クライアントワークでは得られなかった、職業作曲家がアルバム制作で学んだ事。
はじめに。記事の概要。
①「音楽商品」を本格的に出す初体験。
②スタートアップ的、スモールビジネス型のプロモ。
③PRと、自身を取り巻くメディアの思考整理が重要。
④独自性、模倣困難性を如何に業界内街に打ち出せるか。
アルバムをリリースしてから1ヶ月が経ちました。9/9(日)の段階で、僕の曲を聴いてくださった月間リスナーの方達は17,000人を突破し、バイラルチャートには「Brainstorm」と「秒の間」の2曲がトップ5位以内にランクイン。自分の思い描いていた遥か上の成果が出てくれたと思っています。100%支えてくれた皆さんのお力だと思っています。改めて、本当にありがとうございました。
聴いてくださっている全ての方に、心からのお礼を伝えたい。顔の見えない方々に対してこんなにも強い気持ちで聴いてくれたことへの感謝の気持ちを持てる音楽制作の機会を、大変お恥ずかしながら僕は作れていなかったように感じます。
noteをご覧の方々の中には、普段僕と同じように、受託でクライアントに対する成果物を納品されている方々も沢山いらっしゃるかと思います。今回は、1ヶ月が経った今、僕が思う「自分自身の作品」がもたらした価値を書いていきたいと思います。
音楽という商品を出すということ。
僕の仕事は、主に映像作品やショーの音楽を作ることです。それらには全て演出家・監督と呼ばれる全体の統括管理役の方がいて、僕はその方々が考えているビジョンをどうサウンド全体で実現していくのかを考える役割を担います。ハリウッドクラスの映画ほどではないにしろ、CMの制作には時に100名を超えるたくさんの方が関わります。僕は音楽チームとして、時に音楽プロデューサー、時に作曲家として関わり全うするのが責務。
そんな自分が、今回自身の冠をつける形で、音楽を「商品」として世の中に打ち出しました。アーティストの皆さんが当たり前のようにしていることを、僕はこれまでしてこなかった。正直、いろんなことが初体験です。(以前ピアノのアルバムを出した際はほぼCDの手売りでした。)
普段は、納品したら僕のパートは終わりです。けれど今回は、完成してからも制作と同じくらいのパワーでプロモーションしなければいけない。周りに仲間がいてくれていても、僕の想いと熱量を押し出せるのは自分だけ。個人でリリースしたアルバム、マネージャーもつけずにやってきた自分だからこそ、僕自身が全ての責任を持って売り出していく他ありませんでした。
スモールスタート型のプロモーションを知れた。
以前も触れましたが、僕は5年間博報堂の正社員として、営業職に就いたのちに独立してフリーランスの音楽家をやっています。5年間、クライアントの予算を預かる立場として、自分なりにガムシャラに働きました。
そんな自分にプライドもあるし、多少なりともデータや音楽以外のクリエイティブ、マスメディアに関する知識も人よりはあるつもりです。事前に調べ物を沢山して、プロモーションに臨めたのも、僕が僕自身で全決裁を行いながら臨機応変に動けた状況の賜物だと思います。
しかしながら、僕はプランニングする上ですぐ、大きな勘違いに気づきました。それは、広告会社のスケールでゼロスタートの個人を世の中に押し出していくプロモーションは考えにくいということ。個人が現実的にできるプロモーションするための知恵と、数千万〜数億円のペイドメディアを駆使する企業のプロモーションとでは、考え方が大きく違う、ということです。(ペイドメディアって何ぞや?という方もいると思うので、後述しますね。)
PESO型のメディアフォーメーションによるPR。
で、今回、僕が個人でプロモーションしていく上で今も意識し続けているのは「いかに初期段階で第三者の評価を獲得しながら僕の曲を知ってもらうか」です。
第三者というのは、つまり「初期認知を獲得するのに広告を使わない」ということ。これが実は非常に重要で、僕はその代わりに、曲を知ってもらうための「PR」に対して、幾ばくかの広報宣伝費を割きました。
広告とPRの違いを語り出すと長くなるので、よければこちらをご覧ください。「自分自身で他の誰かの枠を買って宣伝する」のが広告だとしたら、「掲載可否は相手に委ねて自分の情報力を強くしてメディアなどに取り上げてもらう」ことがPRだ、と僕は解釈しています。
僕は今回、アルバム「BRAINSTORM」を聴いてもらうためにどのサービスを中心にすえるべきか、作る段階から考えた上でSpotifyを選びました。理由はなんどもnoteに書き記していますが、
・個人でも配信時に工夫ができる。
・プレイリストの力で新人や無名にもチャンスがある。
・動画を必要としない。(これ重要)
という3点です。僕はアーティスト活動をこれまでしてこなかったので、まずは音楽好きの方々に音楽を聴いていただく下地を作りたいと思いました。そのためには、「Spotifyのプレイリストで紹介してもらう=第三者の評価で楽曲を知ってもらう=音楽配信における最も直接的なPR」だと考えて動いてきました。
昨今、音楽と切っても切れない縁になりつつある動画という要素。YouTubeで駆け上がっていくためには、音楽のクオリティと同等以上に動画自体の企画性が非常に重要となります。今回のアルバム制作は、まずはありったけの予算を音楽制作に注ぎ込もうと考えたので、動画については制作を見送りました。そういう意味でも、Spotifyが持つ「音楽の力だけで駆け上がれる可能性」は僕にとって魅力的でした。
また、今回僕にとってSpotifyは、アーンドメディアでもあり、オウンドメディア、シェアドメディアとしての機能も果たしてくれています。
今、僕は楽曲を知っていただくために全てを注ぎ込む段階だと思っています。曲が知られてファンの人がついてくださったらそれが一番の喜び。noteはこのリンク先でいうオウンドメディアですが、最終的な情報導線のゴールはSpotifyで僕の音楽を聴いていただくことだと考えます。
そういう意味で、SpotifyのKotaro Saitoページが僕のオウンドメディア。ここには音楽という商品もあれば、僕のスタジオ写真も掲載されており、今後情報拡充を行っていく予定です。
なお、僕の公式ウェブサイトも機能しておりますが、こちらはどちらかと言えばB to B向けの実績紹介を主にしているため、今回のアルバムキャンペーンにはあまり効力を発揮していないかと思います。僕がぽっと出の作曲家じゃないことを安心してもらうためのサイトとして機能したらいいな。
そして、今回における最強のアーンドメディアでありシェアドメディアはSpotifyの公式プレイリストたちです。
僕のことを知らない方々が、日々これらのプレイリストから僕の曲を聴き、心優しい方々が徐々にフォローしてくださり、Twitterなどで僕のことを書いてくださるようになりました。PESOモデルを説明する上記リンク内に「第三者が保有し、自社ではコントロールできないのが大きな特徴です。」と書いてあるのはまさにその通り。
ここに掲載していただいたことが今回のきっかけの全てであるものの、僕自身には制作段階とリリース前の手続き(詳しくはこちら)しかできることがない。「神の手」と僕は呼んでいます 笑
そして、まだ一切の手をつけていないペイドメディアの部分。現状、僕自身が自分でアプローチし得るSNSでの告知などはやり切った感じがしているので、今後はペイドメディアの使用も検討しつつ、「より広く人に知ってもらえるPR」を基軸に情報発信を行いたいと考えます。
代替・模倣困難な作り手として活動するために
自身の音楽作品を作って一番学びとなったのは、「きっと一部のマニアの方にしかウケないだろうな・・・」と思って作った楽曲でも、いざ聴いていただくチャンスがあればしっかり聴いていただけることでした。
バイラルチャートに歌のないインストゥルメンタル曲はあまり見かけませんし、まして今時オーケストレーションとメタルを組み合わせた曲がトレンドだとも思いません。それでも、曲を素通りせず、最後まで聴いて、お気に入り保存してくださる方がいる。それが知れたことが大きな希望です。
僕はこのアルバムを作るとき、正直一般的なリスニング感覚に欠ける状態で曲を作っていました。どんな楽器を使うか、どんな作曲技法を試すか、どんな人に歌い、弾いてもらうか。自分自身がアイデアを膨らませた結果に、100%ピュアに従ってできたアルバムが今作です。
それがこうして一定の評価をいただいたことで、普段のクライアントワークにも「アルバムの++を聴いて、今回はKotaroさんで行きたいと思いました」というオファーをいただくことができました。テクニック面で自分の持ち味を評価いただき、新たなチャンスにつながったことも、今回アルバムを出して得られた大きな成果の一つです。
音楽制作市場は海外を中心に、どんどんコライトの流れが進んでいます。僕はプロデューサーでもあるので、必要に応じて作家の方に共作をお願いすることもありますし、作家としてアサインされることもあります。この時に、自身の得意領域を持っていることは大きな武器になると思っています。
では、その武器を相手に示す際の最適な判断材料とは?僕は、それこそがこの「BRAINSTORM」になればいいなと思っています。このアルバムを作ってみて、僕の編曲力を評価してくださる業界関係者の方が増えました。共作した仲間の力も、まとめてくださったエンジニアの方の力も合間っての結果ですが、それが僕のプロデューサー、作編曲家としての采配力でもあると素直に受け取らせていただきます。
まだお話できませんが、アルバムきっかけでCM以外にも良縁のお仕事をいくつかいただけそうです。作品は自己表現の場であり、クリエイターを前に進めてくれる大きな力になると思います。制作・プロモーション両面で時間もお金も、何よりも労力がとても掛かるプロジェクトではありますが、音楽家に限らず職業クリエイターの方々が自己発信を盛んに行っていただけたらいいなと願いを込めて、今日は締めたいと思います。