
砂漠植物のイデア?〜サボテンとユーホルビア〜
最近、『甲化人間』という漫画を読みました。承服亭しかねるです。
「全ての生物はやがて蟹になる」
痺れますね。でもあながちただの冗談とは言い切れないところがあります。
甲殻類が悉く蟹のような姿に進化していくことをカーシニゼーションと言うそうです。蟹の姿というものは海底で過ごす生き物にとって最も理に適った姿なのかもしれません。
このように共通する環境で全く異なる種が似通った姿に進化を遂げることを収斂進化と呼びます。どうやら海底のような過酷な環境に適応するという目的において収斂進化がより進む、ということのようです。
今回はその収斂進化が起こる過酷な環境、砂漠での一例のお話です。
はじめに
サハラ砂漠と言われて何を思い浮かべますか?
きっと朧げに砂やピラミッドが浮かんできたのではないでしょうか。その隣にはラクダとサボテンも浮かんだ人もおられるかもしれません。

しかし、そのイメージには大きな間違いが一つあります。
サボテンです。実はサボテンはアメリカ大陸原産で、サハラ砂漠にサボテンはいないはずなのです。
ちなみに、ウチワサボテン等がアフリカにおいて侵略的外来種として侵食しているという事実はあります。日本におけるたんぽぽと同じようなイメージでしょうか。また、アフリカに広く自生する唯一のサボテン、リプサリス・バッキフェラというものがいますが、これはアメリカ大陸から渡り鳥がもたらしたものの生き残りだと言われています。
では、なぜ砂漠=サボテンのイメージがあるのでしょうか。
アフリカの乾燥地帯にはユーフォルビアという植物がいます。このユーホルビアという植物、サボテンと全く関係がないのに関わらず、見た目がめちゃくちゃサボテンです。
棘の生えた緑色のでかい樹姿、完全にサボテンと見紛う存在感です。

私、ユーフォルビアをスーパーやホームセンターで見かけるとタグを確認しているのですが、体感4割くらいの確率でサボテンのレッテルを貼られています。遠い異国の地で他人の空似の勘違いに遭う彼らの気持ちは察するに余りありますね。このページを通して彼らのことを少しでも知って欲しく思います。
サボテンのアイデンティティ
まずはサボテンを知らなければ始まりませんね。
サボテンはナデシコ目サボテン科に属する植物の総称です。多肉植物の一つだとされていますが、この多肉植物という通称は俗称であり、学術的な分類ではないことに注意が必要です。
丸っこかったり、円柱上に伸びていたり、扇状に広がったり、いろんな姿があります。普通の木のようなものもいますし(コノハサボテンやモクキリンなど樹木型はサボテンの先祖と思われる)たくさんの種類がいます。
ではサボテンをサボテンたらしめているものをご存知でしょうか。
棘?たしかに多くのサボテンが棘を持っています。棘は葉っぱが変化したものだと言われています。しかし、ゴジラというサボテンは棘を持ちません。それどころか稜と呼ばれるモコモコとした部分すら持ちません。

結論を言うと綿毛の部分がサボテンをサボテンたらしめているのです。これは刺座(アレオーレ)といい、棘の付け根には必ずこのキュートな白いワタワタがあります。

つまり、どれだけ他の植物が稜を持ち、柱上に伸びて棘を持とうが
この白いワタワタがない限りサボテンに分類されることはないのです。
ユーフォルビアについて
広義のユーフォルビアという名称はトウダイグサ科トウダイグサ属の植物達を指します。ユーフォルビアについても面白い特徴があります。何といっても彼らはものすごく姿が多様です。雑草のような地に生い茂るものがいれば、樹木のように大きく木の幹を伸ばすものもおり、また塊根植物のように根っこがぶっとくなったやつもいます。
環境に応じて様々な姿を持つユーフォルビア、日本でも園芸種として幅広い人気を獲得しています。トウダイグサ自体は日本に雑草として広く分布しますし、園芸植物としてポインセチアを聞いたことのある方は少なくないかと思われます。彼らも歴としたユーフォルビアの仲間です。しかし、こと多肉植物としてのユーフォルビアはアフリカでサボテンのような姿をしています。これはトウダイグサ属の日本にも観賞用として流通するやつらです。
先程のサボテンのようにアイデンティティの話をすると、トウダイグサ属のユーフォルビア達は乳液を持つという特徴が挙げられます。大体がこの乳液に毒を持ちます。ユーホルビア・ビローサという種は非常に強い毒性を持ち、薬理凶室のくられ先生が解説しているほどです。花が杯状花序(サイアチウム)という、雄花と雌花が杯状の一対の葉っぱに包まれる特殊な形を持つことも共通の特徴として挙げられます。
イデアの話
こっからほんとに与太話なのでニコニコしながら無駄な時間を過ごしてくださる方、お付き合いください。
めっちゃ昔のギリシアにて、こんなことを言った人がいました。
「物の真の形って、この世の外にあるんじゃね?」
プラトンのイデア論です。現実世界の全てのものはイデアというずっと変わらない本質のパチモンにすぎないのだと捉えました。
例えば、腐ったリンゴも未熟なリンゴもどれもリンゴだと言えるのは、リンゴのホンモノが私たちの心の中に元から存在しているからだということですね。さらに言うと、理想的な概念というものもイデアです。「美しさ」はその典型と言えるでしょう。メイク術とか、「可愛いは作れる!」的なものって理想的な美という価値観がそれぞれに共有されているから成立すると思うのです。それをプラトンさんはイデアという私たちの心の中に先天的に存在するものとして説いたわけですね。
倫理でこれを習った時、めっちゃ収斂進化やんと思いました。ある同じような環境を用意すると異なる生物種が同じような姿に進化していく。その共通の姿というものがイデアなのではないかと思うわけです。ユーホルビアがだんだんサボテンに近づいていくのは、砂漠植物はコレ!というイデアを彼らが追い求めていることの証左なのではないか、ということです。サボテンにはIQが「3」もあるというのは有名な話ですし、なくはないのかも知れません。
ここではサボテンの持つ特徴が砂漠植物のイデアとして存在するのではないかということですね。まさに、全ての砂漠植物はやがてサボテンになる、というわけです。サボテン化というのを定義すると、稜を持つ、棘を持つという二つの特徴をサボテン化と捉えることができると思います。
実はユーホルビアだけではなく他にもサボテンのような姿を持つ植物達がいます。
アロエやパキポディウム、パイナップルやフーディアという植物達の、砂漠で繁栄する種はどれもたくさんの棘や稜を持つという共通する特徴があります。

これら二つの特徴には砂漠で生き延びるための大きな利点があります。
それは水分をより多く集め、水分を失わないようにするという利点です。
多肉植物の多くはCAM型光合成という、簡単にいうと夜二酸化炭素をリンゴ酸に変えて貯蔵し、昼は気孔を閉じて夜集めたリンゴ酸だけで光合成をします。これは太陽が照りつける時間に水を持っていかれるのが勿体無いため身につけた特徴なのですが、これには難しい条件がつきます。液胞にリンゴ酸をたくさん貯蔵できないといけないのです。だからこそ多肉植物は肉が多い=大きな液胞を持つという特徴があるのです。
稜は影を増やした上で木自体を大きくすることができ、棘はあればあるほど野生動物から身を守れますし、影を増やした上で表面積を増やすことができます。霧などから水を得るためですね。実際、サボテンは棘の根元のアレオーレから水を吸収することもできると言われています。
棘は野生動物から身を守るためとよく言われますが、この影を増やす役割が大きいのではないかと思われます。実際とげはかえしがあるものや、丸く全体を覆うようについているもの(棘を刺すという意味では役に立たない)もあります。
イデアと言えるものが本当に存在するかは分かりません。しかし、砂漠の植物には確かに目指すべき姿があります。これをイデアとするか、たまたまの一致だとしてしまうか、それはあなたの心ひとつです。
あ、こちらは作者「承服亭しかねる」!
家庭の事情で中学生からの一人暮らしを経て、高卒フォーク職人・ドイツビール屋・中華料理店→塾起業→Oxford留学→Univ. London からOffer→コロナで帰国→Univ. Osakaとふらふらして、現在はアフリカ言語を勉強・研究している人間「こたろう」に興味が出たら、以下note!
現在運営している読書会や勉強会、ゼミについて。
おっと。告知を忘れていました。
私「承服亭しかねる」と奇才に憧れる凡才「こたろう」の二人体制でnoteの運営、読書会や勉強会を開催しております。
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