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「問い」という黒魔法〜ひろゆきッズ粉砕計画#1

それってさ。飲み屋のオジサンの言うことは信じるけど、彼氏の言うことは信じないってこと?

こたろうの創作。下を読んでいけば出てくるよ。

ぎゃーーーーーーーーーーーー論破された!なんだよ、あの切り返し、どうやったら返せるんだよ。そんなん考えてるわけないじゃん、なんだよあいつ、と。

最近、巷ではひろゆきッズなるものが生息しています(古い)。
彼らは「論破」ということを至上命題に掲げ、闊歩するモンスター。

僕は決して、許しません。それがキッズだろうがオジサンだろうが、ボコボコに叩きのめすのです。いや、どちらかというと、防御の観点からの方が重要です。清廉潔白なあなたが、悪の手先ひろゆきッズに尊厳を踏み躙られないような手筈を整えておきたい。そのために、相手の手口を完全把握しておく必要があるのです。

今回は、彼らが最も得意とする「問い」による詭弁の仕組みを白日のもとに晒していきましょう。あ、つまんないと思っちゃだめ。これは結構役に立ちます、よ。


前提

議論の場においては、「問い」=「質問」には二種類あります。まず、この厳然たる事実を自覚するところから、ひろゆきッズボコボコ計画は始まります。

ちょっとカッコつけて、古代ローマの弁論家クインティリアヌス先生のお言葉を拝借します。先生は『弁論家の教育(Institutio Oratoria)』っていう本で、質問(問い)を2つに分類してます。

  1. 単なる情報の要求

  2. 論証をしようとする意図を含んでいるもの

誰・・・?という感じですが、この方がひろゆきッズ粉砕の先駆者。

これらの「問い」は見た目は全く一緒に現れるという厄介者。
でも、これらの機能は全く異なります。

「え、なにそれ?」って思った方、めちゃくちゃ普通です。いきなり古典出されてもリアクションに困りますよね。安心してください。
この2種類、めちゃ重要なので、まず簡単に説明します。

1. 単なる情報の要求

「1. 単なる情報の要求」は分かりやすいから大丈夫ですね。
「え、近くのコンビニどこだっけ?」
「いつも買ってるお米の種類なんだっけ?」
みたいな感じ。ただ純粋に教えてほしいだけなんですよ。善意のカタマリ。温かい口調で「◯◯かな〜」「△△だよ」って答えれば、平和に終わります。

A: 「ねえ、近くのコンビニってここから徒歩何分くらい?」
B: 「10分くらいじゃない?セブンがあるよ。」
A: 「あ、ありがとう!いまお菓子食べたくてさー。」
B: 「一緒に行こー!」

ほっこり、何事もなく終わります。これが「ただの情報を知りたいだけの質問」の世界。

2. 論証をしようとする意図を含んでいるもの

はい、問題はこっち。相手を当惑させるため、相手に賛成できない立場を示すために使われる質問です。めんどくさそうでしょう? めんどくさいんです。

これはね、「答え=情報」を求めてるように見せかけといて、実は「おまえ、ちゃんと答えられないだろ?」っていうトラップを仕込んでる質問なんですよ。最強の武器であり防具でもある、まさに黒魔法です。

脳内お花畑人間を蹂躙してくる、野生のひろゆきッズを議論という戦場でボコボコのズタズタにするためには、この黒魔法が必要です。

そして、中級以上のひろゆきッズはこの黒魔法を使ってきますので、防御の意味でも把握しておかねばなりません。

以下の会話例は創作です。決して「こたろう」の実話ではありません。ほんとだ、、、よ。

最近、携帯にロックがかかっていたり、コソコソLINEを返すなどの怪しい行動が散見される吉蔵に沙織が尋ねる。二人はパートナーの関係である。
沙織)今日、別の女の子と歩いてた?
吉藏)ううん、そんなことしてないよ。
沙織)本当に?
吉藏)え、どうして?見たの?
沙織)ううん
吉藏)え、じゃあ、誰かから聞いたってこと?
沙織)うん
吉藏)誰から聞いたの?
沙織)前一緒に行ったことがある居酒屋の店主さんに聞いたよ。あなたが別の女の子と手を繋いで歩いてたって。
吉藏)それってさ。飲み屋のオジサンの言うことは信じるけど、彼氏の言うことは信じないってこと?

この最後の質問はキツイですね。沙織にとっては、YESと答えてもNOと答えても不利です。
YESならば「あ、そう俺のこと信じてくれないのね」と返ってきますし。
NOならば「だよね」で終わりです。

ここでよく考えてみなければなりません。
沙織はそもそも、居酒屋の店主の発言だから信じて、彼氏の発言だから信じていないわけではありません。そこに込められているのは「第三者であり傍観者」/「怪しい男」の二項対立でしょう。

吉藏)それってさ。飲み屋のオジサンの言うことは信じるけど、彼氏の言うことは信じないってこと?

こたろうの創作。うん、創作。

本来のこのラベリングを、吉藏の詭弁は上手くずらしています。「飲み屋のオジサン」/「彼氏」とラベリングを貼り替え、さらには「信頼性」という尺度で責めてきているのです。

この「立場」「役割」の貼り替えは詭弁にとって頻出技法です。

これこそ、「問い」の発問者が圧倒的に有利な理由なのです。問いに使う言葉は相手(=発問者)が選べるので、受け手はそのフレームに乗せられちゃうんです。

仮に、最後の質問が

吉藏)それってさ。第三者かつ傍観者の言うことは信じるけど、怪しい言動が多い男のことは信じないってこと?

最後の質問。真の二項対立編。

ほら?攻撃力ぜっろでしょう。

それも、この質問は本来の形からメガ進化させていて、攻撃力を増させる工夫(レトリック)がなされています。

Lv.1 飲み屋のオジサンと彼氏の言うことのどっちを信じる
Lv.20 彼氏よりも飲み屋のオジサンの言うことを信じるってこと?
Lv.50 飲み屋のオジサンよりも彼氏の言うことを信じないってこと?
Lv.99 飲み屋のオジサンの言うことは信じるけど、彼氏の言うことは信じないってこと?

詭弁の進化形たち

これらの工夫の跡がわかるでしょうか?
パートナー関係としてあるべき姿から乖離した選択を念頭に置いた質問(信じないってこと?)による武装色アップ。
単純な「肩書き」の比較よりも「行動」の比較(信じるvs信じない)による覇王色アップを図っているのです。

今一度整理しましょう。ぼこぼこにするために。ここはメモしてくだされ。

「2. 論証をしようとする意図を含んでいるもの」とは何か。
それは、「答え=情報」を求めているのではなく、論敵を当惑させ、相手に賛成できない立場を示すためのものです。

まず、大事なことに、「問い」は発問者が圧倒的に有利です。「単なる情報を引き出すためのもの」に見せかけて、相手に答える義務を負わせることができます。その質問が、実は「論敵を当惑させ、相手に賛成できない立場を示すためのもの」だとしてもです。

さらに、「問い」の発問者は、問いを構成する言葉を自分自身で選ぶことができるのです。答える側は、その選ばれた言葉に合わせて答える必要が生じるのです。

黒魔法への対抗手段

そのような黒魔法「2. 論証をしようとする意図を含んでいるもの」への対抗手段は、実は簡単です。

それは、答えないということです。

言語学者のラス・マナーは「問い」に対して、「答え」と「言い返し」があると考察しました。単純に答えるのではなく、問いそのものの妥当性を問う回答をすることこそ、詭弁に対する対抗手段なのです。

「問いかけ」の土台を崩していくのが大事。無理に答えようとすると、相手の土俵に乗っかってしまうから要注意です。

先ほどの例で実践訓練です。

吉藏)それってさ。飲み屋のオジサンの言うことは信じるけど、彼氏の言うことは信じないってこと?

訓練あるのみ。

しっかりと「前提」のおかしさを指摘できましたか?
「立場」「役割」の貼り替えを指摘できましたか?
今問題にしているのは、「第三者であり傍観者」/「怪しい男」の二項対立であることを指摘しましたか?

ひろゆきッズ(以下、H):「ねえ、なんでそんな効率悪いやり方してるの? どう考えても変じゃない?」

あなた(以下、A):「うーん…その『効率が悪い』って、どういう基準で言ってるの?」

H:「だって常識的に考えて、その方法じゃ時間もお金もムダでしょ? なんでみんなが普通にやってる方法に合わせないわけ?」

A:「ごめん、その“みんなが普通にやってる方法”ってのがまず分からないんだけど。そもそも、誰の常識? 具体的なデータとかあるの?」

H:「いやいや、常識でしょ? みんなそうしてるから正しいに決まってるじゃん。で、何でそんな非効率なことするの?」

A:「そもそも“みんな”って誰なの? 何人くらい? サンプル数も不明だし、全部ひとまとめで『みんな』って言われても答えにくいんだけど。
あと、あなたが言ってる『効率』の定義が分からないよ。何をもって効率とするの?」

H:「は? そんなの明らかでしょ。」

A:「いや、明らかじゃないね。あなたの話だと、前提がいくつもあって、全部曖昧なままなんだよ。だから、前提があいまいなまま『非効率だ』って言われても、そっちが決めた言葉のフレームに答えようがないかな。」

H:「…。」

最後の戦い。ひろゆきッズのガウガメラの戦い。

勝った!

ここまで読んでくださってありがとうございます。
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ちなみに、この自己紹介結構おもしろいですよ。
フォーク作って、中華鍋振って、ビールを注いで、塾をつくって、イギリス行って、なぜか大阪でアフリカの言語を勉強している男です。

現在運営している読書会や勉強会、ゼミについて。

おっと。告知を忘れていました。
私奇才に憧れる凡才「こたろう」と「承服亭しかねる」との二人体制でnoteの運営、読書会や勉強会を開催しております。

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一緒やないかい!ということで、お後がよろしい様で。

参考文献です。名著です。
これを買っても僕にお金は入りません、安心してください。


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こたろうと暇人読書ニキたち
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