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逢坂志紀掌編集

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筆者、逢坂志紀の掌編、短編集。
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2020年3月の記事一覧

それは偶然なんかじゃなくて Vol.0

それは偶然なんかじゃなくて Vol.0

「なんで男二人でワインバー?! 意味分かんねえ」

「まあそう言うなってジュンヤ。飯も旨いし、何せオレの結婚前祝いだろ」

 オレはわざと目の前のタカフミに聞こえるように舌打ちをした。

「結婚の前祝いだろうと、安い居酒屋でいいだろ。オレが持つんだろ、ここ?」

 タカフミはからりと笑う。

「ははは、ケチ臭いこと言うな、ジュンヤ。幸福が逃げるぞ。オレを見習え、友達の金でワインバーに来る結婚前の幸

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それは偶然なんかじゃなくて Vol.8【最終回】

それは偶然なんかじゃなくて Vol.8【最終回】

「榊の名前をナオさんのケータイから抹消して」

 劣情に任せて、ナオにぶつけてしまった。色々を。これでいいんだろうか? 分からなくなって、ナオの帰ったあとの自室で考える。

 ナオの幸せってなんだろう?

 ナオは榊といるのが幸せなのかな? オレといたってきっと…。

 翌日、月曜日の夜。何か嫌な予感がしてあのワインバーに足を向けた。会えるかどうかとナオに連絡すると断られたから、なんとなく。

 

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それは偶然なんかじゃなくて Vol.6

それは偶然なんかじゃなくて Vol.6

 自室のベッドの上、オレの方が先に目を覚ました。

 ラナンキュラスが窓際で笑っているように思えた。そうだ、笑っていよう。笑っていれば大丈夫。そう、大丈夫なんだ。

 まつ毛の長いナオさんの頭に触れて、名前を呼んだ。

「ナオ…」

 返事はない。もう一度。

「ナオ…」

 うっすら目を開けた状態でナオさんの手が宙を触る。

「サカキさん…」

 ナオさんのその言葉に、全身の血が凍った気がした。

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