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それは偶然なんかじゃなくて Vol.0

「なんで男二人でワインバー?! 意味分かんねえ」

「まあそう言うなってジュンヤ。飯も旨いし、何せオレの結婚前祝いだろ」

 オレはわざと目の前のタカフミに聞こえるように舌打ちをした。

「結婚の前祝いだろうと、安い居酒屋でいいだろ。オレが持つんだろ、ここ?」

 タカフミはからりと笑う。

「ははは、ケチ臭いこと言うな、ジュンヤ。幸福が逃げるぞ。オレを見習え、友達の金でワインバーに来る結婚前の幸福な男。お前にも福分けてやるよ」

 そう言うとタカフミはワケの分からない名前の赤ワインを飲み干した。

 つまらなくて、何気なくカウンターに目を移した。するとそこにはキレイな髪をした一人の女性が美しい所作でワインを嗜んでいた。やっべ、大人。カッコいい。

 徐々にタカフミとの会話はおざなりになり、その女性を眺めることに集中し始めた。顔は上手く見えない。顔が見たくて仕方がなくて、トイレに立った。

 何気ないふうを装って視線を彼女に向けると、意志の強そうな目とくっきりとした鼻筋が印象に残った。タイプだ…。

 席に戻るとタカフミが身を乗り出した。

「どうだ? おっぱいおっきかったか?」

「あ?」

「ジュンヤ、お前さ、さっきからずっとあの女の人見てるよな?」

「えっ?」

 マジかよ、コイツにバレてたのかよ。

「福、分けてやるよ」

 したたかに酔ったタカフミは席を立つと、その一人客の女性の方に歩いて行った。

「すみませーん、お姉さーん」

 タカフミが上品なワインバーに似つかわしくない下品な声をあげると、彼女が振り向いた。やっぱタイプだ。ダメだ、コイツに変なこと言われたらどうしようもない。

「やめろって、お前!」

 タカフミの体を後ろから羽交い絞めにしようとする。それを振り払ってタカフミは言った。

「お姉さん、コイツがお姉さんタイプだってさ!!」

「お前、本当飲みすぎだぞ!!」

 にわかに空気が怪しくなって、店員が近付いてきたところで、彼女はフッと笑った。

「お名前は?」

 キレイな声だった。いや、それよりもこのシチュエーションで名前を聞かれたことに驚いた。

「…ジュンヤ、です」

「ふうん。私、ナオ」

「あ、そすか」

 照れを隠して後頭部をかくのがやっとで、目も合わせられない。オレは高校生か。

 タカフミが先に戻ってるぞ、と手をひらひら振った。

「あー、えっと」

「ん? なーに?」

 しどろもどろになっているとタカフミが後ろから言った。その手にはジャケットがあって、タカフミは鞄も持っている。

「オレ、帰るんで。あとはお若い二人で!」

 ちゃお! などと叫んで店から出て行く。なんだ、アイツ。本当、クソ迷惑な。

「隣、どうぞ?」

「あ、はあ…」

 ナオさんの隣に腰かけた。近いよ、なんかいい匂いするし、なんなんだよ。

「一人で寂しかったんだ。よかった」

 そう言って笑ったナオさんの笑顔に、オレはあっという間に魅了された。それは偶然なんかじゃなくて。

おはようございます、こんにちは、こんばんは。 あなたの逢坂です。 あなたのお気持ち、ありがたく頂戴いたします(#^.^#)