世界の果てに医療を届ける。
2014年、カンボジアで出会ったお母さんは、生後22日目の赤ちゃんを亡くして泣いていた。
それを見て、何かできる事はないかと思い、いろいろな人の協力を得て2017年にNPO法人あおぞらを立ち上げてクラウドファンディングで資金を募り、カンボジアの僻地サンブール地区に保健センターを建設することが出来た。
世界では年間230万人(2021年※)もの赤ちゃんが生後1か月以内に亡くなっている。1日に約6300人の新生児が命を落としている。
赤ちゃんの約1割は生まれた時に呼吸していないとされ
そのうちの約9割の赤ちゃんは基本的な技術により蘇生する事が出来ると言われている。
この基本的な新生児蘇生法ができる医療者が多くなれば、赤ちゃんの命を救えるかもしれない。
まずは出来る事をやろうと、専門家の嶋岡先生と新生児蘇生法の講習会を始めた。
※出所:ユニセフ世界子供白書2023
2018年にはタンザニアに保健センターを建設した。どちらもクラウドファンディングでたくさんの方に協力していただいたおかげで、現地のたくさんの人を笑顔にすることが出来た。
2019年には、ラオスでJICA海外協力隊と協働した新生児蘇生法の普及活動を開始し、2021年には、JICAの「世界の人びとのためのJICA基金活用事業」に採択され、ラオスで新生児蘇生法インストラクターを育成するプロジェクトを実施した。
そんな時、新型コロナウイルスの世界的な流行が始まった。
36歳の時だった。
2020年に入り、あおぞらのほとんどの活動が止まった。
今まで才能も特にない中、頑張った。
カンボジアの支援も15年続けた。自費出版の本は何百回も書店に営業に行き、色々な方のおかげで映画になった。
NPOを立ち上げ、自分なりには、色々な方と一緒に頑張った。
病院には午前4時ぐらいに行き、NPOの仕事をこなした。
もう辞めようか。
自分なりに十分頑張った。
でも、時々眠れない夜に思い出した。
マラリアでお子さんを亡くしたお母さん、産後出血でお母さんを泣くした女性、妊娠高血圧症による子癇でお母さんを亡くした男の子。
それらは救える命だったかもしれない。
別に全てが平等になるべきだと思わないけれど、救えたはずの病気でお母さんを亡くした赤ちゃんは、お母さんのことを知らずに育つ。
この世界は公正だろうか。
自分が行動したところで、何も変わらない。
ただ、目の前の人、自分が出会った人なら救えるかもしれない。
だとすれば、自分が行動しないという事は、救える命を見過ごす事かもしれない。
ダサいなぁ。
適当に言い訳を
行動しない言い訳を並べて。
行動したって、結果が出るかは分からない。
無様に失敗して、アホだなーと後ろ指をさされるかもしれない。
でも、少なくとも、こういう思いで、行動したという事だけは言える。
その時は、最悪の最悪、格好悪いけれど
「最大限、頑張ったけれど、ダメでした。」
と言える。
それは、言い訳や御託を並べて、自分を守っている自分よりは100倍マシだ。
つべこべ考えず、苦しんでいる方がいるなら、言い訳を並べる前に、もう一度だけやってみよう。
また、朝4時ぐらいからNPO、医師と仕事を行う生活になり、何かできる事ないかと色々な方法を探した。
ある日、まだコロナ禍の真っ只中に、パソコンで適当に「遠隔、新生児蘇生法」の様に、調べた。
当時は全く渡航できない状況だったので、遠隔で新生児蘇生法の講習会が出来ないだろうかと、素人考えで、検索した。
エレコム株式会社というパソコン周辺機器の会社が産学連携事業として、遠隔で新生児蘇生法教育のシミュレーターを開発している事を知った。
京都大学・立命館大学との 「どこからでも学べる遠隔新生児蘇生法講習シミュレーター」共同開発に参画! - 最新情報 - ニュースリリース|ELECOM
今まで、僕は認定NPO法人あおぞらとして、目の前の人に何か出来ないかと専門家の先生方と非常にアナログに活動してきた。
それはそれで良い活動だけど、現地のインストラクター育成には時間が掛かるため、どうしても規模の限界が来る。
もし、これを色々なところで導入すれば、経験が浅いインストラクターでも安価に効果的なシミュレーション教育を行う事が出来るようになり、赤ちゃんの命を救える医療者が増えるかもしれない。
その後、その新生児蘇生法教育のシミュレーターを途上国に展開するために、パートナーNPO/企業とコンソーシアムを作り、シミュレーターの普及と合わせて新生児蘇生法教育の展開を目指した。
さらに世界に展開するために経済産業省の補助金事業に申請して、カンボジア、ネパール、コンゴ民主共和国で基礎調査を実施することが出来た。
多くの方々の協力を得て、ラオス、カンボジア、ネパール、コンゴ民、モンゴルへ活動を展開し、約700人以上の医療者により質の高い新生児蘇生法研修を受ける機会を提供できた。
カンボジアでは認定NPO法人あおぞらと協働し、国立母子保健センターやコンポンチュナン州病院、カンボジア最大の病院であるテコーサンテピアップ国立病院においてシミュレーターを使った新生児蘇生法の講習会をおこなった。
ラオスではラオス健康科学保健大学に対しシミュレーターを寄贈し、認定NPO法人あおぞらの柳先生にも協力して頂いてインストラクター講習会を行った。
その後、ラオスの教育病院における医学生、研修医に対する研修プログラムに寄贈したシミュレーターを活用した新生児蘇生法訓練が導入され、延べ380人以上の若い医療者が新生児蘇生法を習得している。
コンゴ民主共和国では株式会社SOIKと協働し、現地の行政機関、医療機関にシミュレーターのデモンストレーションを行った。
ネパールでは特例認定NPO法人ASHAと協働し、ネパール国の医療者教育プログラムへの導入を目指し、保健大臣や周産期学会、医療機関等へシミュレーターのデモンストレーションを行った。
モンゴルでは、日本の新生児蘇生法委員会の協力を得て、周産期学会メンバーへの新生児蘇生法シミュレーターの体験会を行った。
その日本新生児蘇生法委員会とモンゴル周産期学会との繋がりを活かし、2024年度は、モンゴルの新生児蘇生法教育の質の向上及び地域格差の是正を目指す事業が厚生労働省の補助金に採択され、今後の重点的に展開を目指すこととなった。
コロナ流行下で、インターネットで検索した4年間に、また色々な事があった。
本当のところは、上手くいかなかった事の方が、多かったかもしれない。
それでも、またやろう、もう一回挑戦してみようと思えたのは、最後は本当は意地みたいなところもあった。
小さい頃に、国境なき医師団に憧れた。
アフガニスタンの中村哲先生が亡くなった時は、なぜかNHKの追悼番組にも出演した。
小学生や中学生の自分が、今の自分を見たら、どう思うだろう?
迷った時や立ち止まった時はそんな事を時々、考えながら、行動した。
いつも、いつも行動の最初は批判される、時に馬鹿にされる。
だけど、やり続けて、ちょっとずつ笑顔になってくれる人が増えると、状況は変わっていく。
自分が無力で、恥をかいた日も、方法を間違えて、盛大に失敗して、ほら見たことかと笑われて。
そんな日々は、自分次第で、仲間と一緒なら、オセロの様にいつか、ひっくり返せるかもしれない。
だから自分がやるべきことはいつも、
諦めない事、最後の最後まで力をつくすこと。
そんなことを思った。
①やると心に決めて、行動する。
②孤独でも無視して、進む。
③2人ぐらい、手伝ってくれる人が現れる。
④ほとんど失敗する
⑤もう一回チャレンジする。(だいたい半年~1年ぐらいかかる)
⑥また、ほとんど失敗する
⑦仲間が10人以上に増える。
⑧またチャレンジする
⑨ほんの少しだけ成功する
⑩小さい成功を頼りに、ひたすら行動する
⑪いつのまにか仲間が増えて、ちょっとだけまた成功する。
⑫失敗する→行動する→上手いくのループ。
僕の場合はいつもいつも、本当の仲間が来てくれた時は、成功した時じゃなく、失敗した後に挑戦している時だった。
プロジェクトが上手くいった時ほど、仲間はあまり来なかった。
そして、だからこそ、たくさんの赤ちゃんの命を持続的に救えるように、これからも挑戦していきたいと思う。