ときどき、ゆるむ。ゆるませる。
ことあるごとに頭の中で呪文のように唱えている言葉がある。
「ゆるめ。」
形容詞的な意味ではなく、自分自身に向かっての命令として。
もっとリラックスして、体を緩めろよ、と。
この習慣は、歯医者さんに検診に行ったことから始まる。虫歯があったわけではないけど、こどもが生まれる準備の一つとして、体のメンテナンスのため。そこで「何か気になっていることがありますか?」と聞かれた。
自分ではあまり分からないのだけれど、夜寝ている時に、歯軋りをすることがあるらしい。そのせいか、知らぬまに少し歯が欠けていたりする。
そのことを相談してみると、「奥歯に力が入りすぎているせいですね。体を休ませるためにも、自分に向かって『ゆるめ』と言ってあげてください」と言われた。
そんなことでいいの?と思ったが、いいらしい。言葉にする、あるいはその文字を見ることで、筋肉が自然とゆるむそうだ。誰でも簡単にできる、体のケア。ゆるむ。そんなことを、歯医者さんが教えてくれるとは思っていなかった。
歯のこともそうだけど、これは自分の性格そのものに言えるものだった。僕はどこか、歯を食いしばりすぎるところがある。我慢というか、耐えるというか。そういう方向に力を使ってしまう性格。そのこと自体を否定はしないが、気をつけてケアしなければ、気づいた時には壊れてしまっていた、なんてことになりかねない。
だから、自分自身にもアンテナを向けて、気を配る。リラックスしていい時は、「ゆるめ、ゆるめ」と声をかける。歯を守るため、でもあるが、もっと大きく、自分自身を守るためだ。
以来、その歯医者さんには定期的に通っている。それ自体もまた、セルフケア。プロによる定期的なメンテナンス。そうやって自分を大切にしてあげるのだ。
自分を大切にできていれば、ちょっと意識を向けるだけで、周りの人も大切にできる。人生を、豊かな方へと進めてくれる。そのためにもまた、「ゆるめろよ」と、自分自身に声をかける。