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愛することは怖くて美しい

夫に愛人がいたら
私はどう思うのだろう。

井上荒野さんの
「あちらにいる鬼」を読み終えたのだが
余韻がすごくて
しばらく私の心も遠くへ行っていた。

昔から井上荒野さんの書く物語が好きだ。
きちんとアイロンをかけた洋服に
触れるようなそんな気分になる。

この小説は
荒野さんの父である井上光晴氏と
恋仲になった瀬戸内寂聴さんと
荒野さんの母親をモデルにしている。
フィクションのことや
実話の部分もたくさんあるのだろうけれど
なんだか見てはいけないものを
見させていただいたように
ドキドキしながら大切に読んだ。

読み終えて
瀬戸内寂聴さんと
荒野さんのお母様の気持ちが
心に染み込んできて
なんとも言えない気分に引きずられている。

浮気とか愛人がいるとか
若い頃の自分だったら
絶対に無理!と思っていた。
でもこの小説を読んで
むむむ、と考えてしまい
今もまだ考え中なのである。

わたしが妻の立場だったら
こんなに美しい振る舞いができるだろうか?
無理!!←即答!

私が愛人の立場だったら
こんなにものわかりよく振る舞えるだろうか?
無理!!←またもや即答!

憎んだり呪ったりしてしまいそうな自分がいて怖い。

しかし
読んでいくうちに
不思議とこんな関係もありかもしれないなぁ
なんて
そのように思ってしまうのは
荒野さんの文章のもつ力だと思う。
すごい作家さんだ。

あ~切ないな。
も~やだな。
と読みながら登場人物に感情移入しながら、この先どうなるの?と気になり
あっという間に読んでしまい頭の中が静まり返る。
最後のシーンとか、
うわ~って、感動すらしてしまった。

この3人はもうこの世にはいない。
そう思うとまた切ない。

もしかしたら
あちらの世界で笑いあっているのかも。


私は小さな頃
父のそういった関係の女性に会ったことがある。母が婦人会でいない日の夜
近所の飲み屋にいるからこい、と父から電話で呼び出された。
夜道を1人歩いてお店に行くと父と知らない女の人が寄り添い笑いあっていた。
私に気づいた父が手招きしてカウンターの席に座らせる。
父の横にぴったりくっついていた女性が
「あら、可愛いわね」と
私を座らせ髪をなでてくれた手が首に触れ冷たく、ふと横に掛かっている鏡を見た。
その女性は声とは裏腹に
鬼の形相で私の後頭部を睨んでいた。
怖くなって
「帰る」と言い残し夜道を1人で走って帰ったことを思い出した。
この夜のことを母に話すことは
今もできていない。

人を好きになるって素敵なことなのに怖い。

でもこの本に出てくる2人の女性を
私は美しいと思ってしまった。
そしていろんな人に愛され愛した
井上光晴氏も凄いなぁ!と純粋に思った。
(普通は修羅場になるはず!)

人を好きになる気持ちって
自分では止めることができなくて
病のように心を苦しめる。

私が妻の立場なら
私が愛人の立場なら
私が両親についての物語を
書くことになったら、と
いろんなことを考えさせられた。

実際のところはわからない。
だからいろんな思いを馳せる。

また何度も読み返したい。
色々と心を揺さぶれ
大好きな一冊とまた出逢うことができ
幸せな気分になった。



***

余談ですが
何年か前に家族みんなで
井上荒野さん
角田光代さん
江國香織さん
3人の小説についての講座を聞きに行った。
(以前記事にちょっと書いたかも)

三者三様で
「フルーツだけを食べて生きていきたい」
と言う江國さんはご自身が書く小説の中のような人だった。

「自分の作品が映像化になったのは見たくないなー!」
角田さんは私がイメージしていた通りの人で
いろんなお話をずっと聞いていたいと思った。

荒野さんはあまり口数が多くなかったのですが
「料理とか見た目が綺麗でも食べると何これ?っていうことがあると怒れちゃいます。こんな風に作ればいいんでしょう~!って言うのが一番嫌ですね。
小説も、文章もこんな風に書けばいいんでしょ~!はすごく嫌ですね」
と言った荒野さんのこの言葉は
今も私と夫の心に宝物のように輝き響いていて、2人でたまに
「こんな風に~はダメだよね!」と言い合って小説を書いています。

やっぱり井上荒野さん大好きだなぁ!
あらためて思ったのでした。


最後まで読んでいただき
ありがとうございます。

心から感謝の気持ちを込めて。




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