【スポーツ×学校教育】「学びの再構成」と「フラッグフットボール」(スポーツデザイン研究会用)
※この記事はスポーツデザイン研究会に投稿するための記事です。
スポーツデザイン研究会については以下の記事をご参照ください。
「スポーツの使われ方」を学びあう"スポーツデザイン研究会"作ります。
1.はじめに
10月に新潟大学教育学部附属新潟中学校(以下、附属新潟中)にフラッグフットボールを「使って」もらえたので、その事例報告します。
附属新潟中は教育学部の附属校ということで、様々な教育研究が学校現場で行われています。
そして、その成果が定期的にまとめられ発表されています。
今回、10月の教育研究発表会でフラッグフットボールを教材として取り上げて頂けました。
なぜ、フラッグフットボールが取り上げてもらえることができたのか?
それはフラッグフットボールが附属新潟中学校が取り組んでいる「学びの再構成」に適したスポーツだからです。
2.新学習指導要領で求められる「主体的・対話的で深い学び」とは?
2020年度から、文部科学省は学習指導要領が改定され、新学習指導要領に沿った教育へと学校教育は変わります。
新学習指導要領では、全ての教科で身に付けるべき資質・能力が以下の3つに整理されています。
①知識・技能:何を理解しているか、何ができるか
②思考力・判断力・表現力等:理解していること・できることをどう使うか
③学びに向かう力・人間性等:どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか
そして、このように整理された資質・能力を生徒が身に付けるために必要なのが「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)と設定されています。
中央教育審議会答申「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(2016)によると「主体的・対話的で深い学び」は次のように解説されています。
「主体的・対話的で深い学び」の具体的な内容については、以下のように整理することができる。
「主体的・対話的で深い学び」の実現とは、以下の視点に立った授業改善を行うことで、学校教育における質の高い学びを実現し、学習内容を深く理解し、資質・能力を身に付け、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けるようにすることである。
① 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。
子供自身が興味を持って積極的に取り組むとともに、学習活動を自ら振り返り意味付けたり、身に付いた資質・能力を自覚したり、共有したりすることが重要である。
② 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。
身に付けた知識や技能を定着させるとともに、物事の多面的で深い理解に至るためには、多様な表現を通じて、教職員と子供や、子供同士が対話し、それによって思考を広げ深めていくことが求められる。
③ 習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。
子供たちが、各教科等の学びの過程の中で、身に付けた資質・能力の三つの柱を活用・発揮しながら物事を捉え思考することを通じて、資質・能力がさらに伸ばされたり、新たな資質・能力が育まれたりしていくことが重要である。教員はこの中で、教える場面と、子供たちに思考・判断・表現させる場面を効果的に設計し関連させながら指導していくことが求められる。
3.附属新潟中が取り組む「学びの再構成」とは?
新学習指導要領に提示された、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」の中でも最も重要だとされているのが「深い学び」です。
これは一時期、アクティブ・ラーニングが流行った時に、とにかく生徒に何か活動をやらせようという誤解が広まってしまい、生徒に主体的に学ばせることがただの放置になってしまっていたり、対話的な学びがただの会話になってしまい「活動合って学び無し」という状況が出てきてしまった過去の反省を踏まえ、「深い学び」が最も重要だと強調されているようです。
もう一度前述の「深い学び」に関する記述を引用します。
習得・活用・探究という学びの過程の中で、各教科等の特質に応じた「見方・考え方」を働かせながら、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりすること
附属新潟中はこの深い学びを実現するために、生徒の中で知識や技能が互いに関連付けられ、再構成されることを如何に促すか、という観点で教育研究を行っているそうです。
これが「学びの再構成」と名付けられています。
正確な定義は以下です。
【学びの再構成】
学習者が知識及び技能を,様々な事象・現象などを通してとらえ直し,相互に関連付け,構造化をしていくこと
新潟大学教育学部附属新潟中学校研究会 "附属新潟中式 「主体的・対話的で深い学び」をデザインする「学びの再構成」"(2019) P.15 より
以下画像は附属新潟中のHPより引用した解説です。
この「学びの再構成」を促すために次のような工夫がされています。
「学びの再構成を促す工夫」は,生徒の連続した学びのプロセスに合わせ,「学びの再構成を講じる前」「学びの再構成を講じた時」「学びの再構成を講じた後」の3つに分けて構想します。
「学びの再構成を促す工夫を講じる前」では,再構成に必要な対象に関する知識及び技能を焦点化し,授業で構成できるようにします。生徒がどのような知識と知識を関連付けて,概念として形成していくのかを見通しをもってデザインすることが大切です。
「学びの再構成を促す工夫を講じた時」では,具体的な働き掛けをします。ポイントになるものが,新たな対象の提示です。新たな対象は,単元・題材での中心となる対象を新たに設定するものではありません。生徒の対象に向き合い意識に基づいて,新たな対象を次のように定義付けています。
【新たな対象】
教師の働き掛けによって,生徒が対象を別の視点からとらえ直し,新たな問いをもって追求(追究)し,知識及び技能の関連付けをより促すもの
教師が新たな対象を提示することによって,事前に構成した知識及び技能のつながりをほどいたり,新たな視点を基につなげたりすることによって,学びの再構成を促します。
(中略)
「学びの再構成を促す工夫を講じた後」では,生徒が,教師の働き掛けによって,知識及び技能を相互に関連付け,構造化した結果,何を再構成したのかを明確にします。単元・題材での中心となる対象を深く理解することによって,生徒は「深い学び」へと向かうのです。
新潟大学教育学部附属新潟中学校研究会 "附属新潟中式 「主体的・対話的で深い学び」をデザインする「学びの再構成」"(2019) PP.20-21 より
そしてこの「学びの再構成」を連続したプロセスとするための枠組みを「見通し(Anticipation)」「行為(Action)」「振り返り(Reflection)」のAARと設定されています。
以下は附属新潟中HPから引用したAARによる連続した学びの再構成イメージの画像です。
今回、この図が最も重要です。
なぜ、フラッグフットボールが「学びの再構成」に適したスポーツなのか、個人的にはこのAARのプロセスが密接に関係していると感じています。
またもう1つ、「学びの再構成を促す工夫」でポイントとなった「新たな対象」がフラッグフットボールでは設定しやすい、という側面も重要です。
以下解説いたします。
4.「学びの再構成」と「フラッグフットボール」
①「新たな対象」が設定しやすい
まず、フラッグフットボールは「新たな対象」を設定しやすく、学びの再構成を促しやすい、という点です。
フラッグフットボールは非常にルールが柔軟です。
本家のアメリカンフットボールもコロコロと重要なルールが毎年のように変わったりすることもあり、「ルールは目的に合わせて変えていくもの」という認識が競技全体にあります。(キックオフの位置や、制限時間、ブロック方法の制限など、いろんなことが毎年変わっています。)
フラッグフットボールも日本には複数のルールがあり、絶対にこのルールでないといけない、というものがあまりありません。さらに小学校の授業でやりやすいように柔軟に複数のルールを用意しています。(現在、国際大会ルールを大事にしようという流れはあります。)
例えば、
○攻撃を守備の人数よりも1人多くするルール
○攻撃と守備の人数を同じにするルール
○守備は攻撃の陣地内への侵入を禁止したルール
○守備はプレー開始前に手を挙げて知らせていれば攻撃の陣地内に侵入できるルール
など、プレーヤーの習熟度に合わせてゲームのバランスをルールで変えたりします。
この複数あるルールを活かして授業を行うことにより、「学びの再構成」を促すことがやりやすいのです。
最初に取り組んでいるルールをAとしましょう。
ルールAでしばらく生徒が習熟してきて、チームでの作戦の立て方や連携のタイミングの調整が上手く出来るようになったとき、知識と技能が関連付けられて学びが構成されたと考えられます。
この時に、教師はルールをBに変えると宣言します。
そうするとルールAで上手くいっていた作戦がルールBでは上手くいかなることが発生します。
生徒はルールBに対応するために作戦を修正し、新しい作戦を練習します。
この一連の活動により、にこれまで身に付けてきた知識と技能の関連付けを一旦ほどき、新しい形で知識と技能が関連付けられます。
まさにこれが「学びの再構成」と考えられます。
これにより、フラッグフットボールを通じて「変化する状況に対応する動き方を考える力」を身に付けることができるのです。
個人的には、学びを深めていくことにより、フラッグフットボールでない競技(サッカーやバスケットボールなど)にも通用していく力を身に付けることができるのではないかと感じました。
②フラッグフットボールの流れ自体がAARのプロセスである
また、連続した学びの再構成のプロセスである「見通し(Anticipation)」「行為(Action)」「振り返り(Reflection)」のAARですが、フラッグフットボールの流れがまさにこの流れとなっているんです。
フラッグフットボールは、最初に基礎技術の練習と作戦の立案をします。次に作った作戦通りにプレーし、終わった後にビデオチェックしながら、足りない技術を洗い出したり、作戦を改善したり、新しい作戦を立てたりします。
すなわち次のような流れとなります。
基礎技術練習・作戦立案 ⇒ プレー ⇒ ミーティングによる改善 ⇒ 足りない基礎技術の練習・新しい作戦立案 ⇒ プレー ⇒ ミーティングによる改善 ⇒ ・・・・
図にするとこんな感じです。
はい、これ似てますよね?
AARに。
再掲します。
見通し = 基礎技術練習・作戦立案
行為 = プレー
振り返り = ミーティングによる改善
というように読み替えることができます。
このようにフラッグフットボールの流れ自体が「学びの再構成」を促す流れになっているのです。
以上のように、
①「新たな対象」が設定しやすい
②フラッグフットボールの流れ自体がAARのプロセスである
という2つの特徴によってフラッグフットボールが「学びの再構成」に適したスポーツであると考えられます。
また、実際にフラッグフットボールの授業に取り組まれた先生からは、フラッグフットボールのメリットとして他に、
○ボールを手に持って動くという競技のため、他の球技よりも個人の技能差が生じにくく、スペースに着目して動くことや仲間と連携して動くという技能の習得を促しやすい。
○1回の攻撃が終わるとプレイが止まり、改めて攻撃が始まることから、動きの連続性が生じにくくなることが技能の高低に関係なく、どの生徒も安心して運動に取り組むことができる。
○中学3年生で実施すると、もう仲間の得意不得意を理解しており、それらを踏まえながらより一人一人の特徴や個性に合わせた動き方や作戦を追求しようとすることができる。
ということを挙げて頂きました。
5.さいごに
今回はフラッグフットボールが教育の現場で「使われた」事例をまとめました。
私個人としてはこのような事例を増やしていき、さらにフラッグフットボールの可能性を追求していきたいと思います。
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