波乱だった過去【５・小学３年生で初めて死にたいと包丁を手首に当て泣いた】

念願の引越しが終わり
怖い祖父から解放され
ひいおばあちゃんと母との生活が始まった。

ひいおばあちゃんは私を愛してくれていたし
私のワガママも聞いてくれる
本当に優しくて
大好きなおばあちゃんだった。

ただ８０歳を過ぎていても
毎日のように２３時の閉店まで
蒲田駅にあるパチンコ屋さんに行っていたので
帰りはいつも２４時過ぎ。

遅い時は２５時近くになることもあった。

そのたびに私は
ひいおばあちゃんに何かあったんではないかと
それはそれは心配で
気が気ではなかった。

そんなふうに夜は毎晩
いつも家にひとり…

学校から帰っても
鍵っ子でいつもひとりだった。

私の時代は
小中学校がまだ週休二日でなくて
土曜日は４時間目まで学校があった。

でも土曜日は給食がなくて
学校の帰り道には
お腹がぺこぺこ状態。

自宅のある３階まで
小さなマンションの階段を上がると
だんだんとカレーの匂いがしてくる。

”もしかしてウチかな？！
もしかして今日のお昼はカレー？！”

ワクワクしてドアを開けると
家には誰も居なくて
カレーの匂いの正体は
隣の部屋だった…

なんてことは毎週で
引っ越しても
家庭環境の淋しさは
あまり変わらなかった。



怖い祖父の顔色を伺わないのは
私にとって自由そのものだったが
寂しさという意味では
より孤独を感じる生活になっていた。

引っ越し後は
母も時折帰って来てくれるようになり

少ない時は週１日
多い時は３～４日

深夜か朝方に帰ってきては
夕方頃起きてメイクをして
１８時頃には出かけて行く
そんな生活スタイルだった。



母がお店に行く時は
近くの私鉄の駅まで一緒に行って
母が電車に乗って見えなくなるまで
ホームの下からいつも手を振って見送る。



そしてまた
誰もいない真っ暗な家に
ひとりで帰っていく。

ただ、帰ってきてくれることを
そんなふうに喜べる時もあれば
怖くてビクビク怯える時もあるのが
私の母。

家にいても夕方まで寝ているので
学校から帰っても
母が寝ていると
とてつもなく気を遣う。

北向きの我が家は
カーテンを閉めてしまうと
完全に部屋が真っ暗になる。

その締め切った暗い部屋で母は寝ているのだけど
母は猛烈にヒステリックな人だったので
少しでもカーテンを開けてしまったり
テレビなんて付けようものなら
ものすごい剣幕で怒られる。

母が起きるまでは
暗い中で静かにしていないといけないので
母がいる日にテレビを観たい時は
イヤホンで観なければいけないし
たとえイヤホンで静かに観ていたとしても
画面の明るさも怒られるので
テレビにバスタオルをかけて
顔をその中に入れて観なければいけない。




ある時、母がいると知らずに
お友達を連れて帰ったら
「なんで友達なんか連れてきたのよ！！！！！！！！」
と、友達の前ですごい剣幕で怒鳴られ
泣きながら家を飛び出したこともあった。

そんなふうに
とにかくヒステリックで
私は本当によく怒鳴られた。

「あんたなんか産まなきゃ良かった！」は
怒られる時の決まり文句。

「あんたなんか産まなきゃよかった！」
「この金食い虫！！！」


それを初めて言われたのは小学３年生だったのだけど
その言葉のショックが大き過ぎて
その時は言い返すことすらできず
ただ黙って呆然と立ち尽くしたのを覚えている。

それを言われた後
私はベランダでひとり
包丁を手首に当てて泣いた。

今思えば
１DKの狭い家のベランダで
私がひとり泣いていてもお構いなしに
怒った後も母は寝ていたんだから
非情と言えば非情だ。

今でもその時の光景は目に焼き付いていて
小学校３年生で
私は初めて本気で

”死にたい”

と思った。

一度言うと
母も何かのタガが外れたのか
機嫌が悪くなると
毎回言うようになり
気がつけば定番のお決まり文句になっていた。

母のその言葉は
その時の私に猛烈なダメージを与えたけれど
きっとその言葉だけに反応した訳ではなくて
それまでのツラい体験が
私の中に”自己否定”という土台をしっかり築いていて
「死にたい」
という気持ちの単なる起爆剤のような
そんな感じだったのだと思う。

「あんたなんか産まなきゃ良かった」

この言葉を
親に言われたことがある人は
かなり多いと思う。

他にも母からは

「あんたはウチの子じゃなくて
みかん箱に入って捨てられてたのを拾ってきたのよ」

なんかも言われてきたが
この言葉は
『親から言われた酷いセリフBest１０』
があったらランクインすると思うくらい
世の中的にも定番だろう笑。

「あんたは捨てられてて拾ってきた子なのよ」

も、よく言われたけれど

「あんたは本当は６つ子だったの。
だけど、他の子はみんな死んじゃって
あんただけが生き残ったの。
あんたじゃなくて他の子が生きてれば良かったのに」

なんてものもあって
きっとこれは私の母オリジナルだろう。

ま、その手のセリフは
大体制覇しているということだ。

今思えば
決して私が嫌いだったわけではなくて
きっと夜の仕事をしながら
私とひいおばあちゃんを養っていくのに
色々なストレスがあったのだろうと思うし
何よりきっと恋愛で色々あったのだと思う。

きっと私が
ストレスのはけ口だっただけなのだと
今はそう思う。

だけど
まだまだ小さな子供の私に
そんなこと当然理解なんて出来るわけは無く
それまでの色々な傷や劣等感をベースに
母のこのツラい言葉たちと
いつ怒り出すかわからない恐怖とが
私の心の歪みと自己重要感の低さを
どんどん作り上げていってしまった。





夜はいつもひとりぼっち。

ひとりでご飯を食べ
ひとりで銭湯に行き
帰ってきてまた
ひとりでテレビを観る。

そんな小学生時代。

当時の私に
自転車の乗り方を教えてくれたのは
もちろん父でも母でもなく
ひいおばあちゃんが連れてきた
パチンコ屋さんの店員のお兄ちゃんだった。