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プロがアートについて文章を書く7つのテクニック 〜秋吉風人「Godchildren」展より
アート好きなら、展覧会など鑑賞したらSNSへ投稿することも多いだろう。しかし、アートについて語るのは簡単じゃない。
実際、インスタに投稿されるアート写真に「自分なりの感想」を書いている人は多くない。見かけるのは、サイトの解説文コピペや、展覧会名などの「情報」のみの投稿だ。
何も悪くない。けどもったいないとは思う。
現代アートは「考えるきっかけ」をくれるものだ。見たアートについて書かないのは、考えていないのと同じ。それは「よく鑑賞した」と言えるだろうか?「見た」「撮った」だけではないか?
なんて。ちょっと大げさに言ってみたのは、六本木のTARO NASUで開催されていた秋吉風人「Godchildren」展がとても面白かったからだ(と、人のせいにしてみる)。
このnoteでは、「プロがアートについて文章を書く7つのテクニック」を本展から勝手に学び取ってみた。
なおアートが見たいだけの方はYouTubeもどうぞ。
秋吉風人「Godchildren」展
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とても楽しみにしていた展覧会。無地の絵画の何が楽しみかって?絵画の下に、文章があるのだ。
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この展覧会は、29枚の絵画を29人のキュレーターや美術批評家へ1作品ずつ振り分け、作品タイトル命名、作品解説の執筆が依頼されたもの。
ライターに与えられたのは、
・作品の確認
・サイズ・素材・制作年
のみ。アーティストの作品に対する想いや意図などは一切語られない。書き手のセンスが問われるだろう。
良い文章とは?
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ところで、よくある美術関係の文章を「最後まで読むのがしんどい」と思うことがないだろうか?
「小難しいほど良い」とされてるかのような印象で、わざわざややこしく書かれているような。
「分からない人は読まなくていい」
と、読み手を突き放すところがあるように感じる。
これは一般的に良いとされる文章とは真逆だ。良い文章とは、伝わる文章であるとされることが多い。
あるいは、アートについて語るには文章もアートである必要があるのだろうか?
読みづらい小難しい文章ほどアートである、ということ?
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私はフリーライターとして文章を書く仕事もするが、美大出身ではないし、美術関係者でもない。美術の学術的な知識はほぼないが、好きで年1,000展を見に行くような、ほんの少しだけ狂ったアートラヴァーである。
そんな私でも、あるいはライターでないあなたも、美術ライターのテクニックを盗めば「それっぽい」文章が書けるかもしれない。
そこで、秋吉風人「Godchildren」展にある29人のライターのチャレンジを分析し、7つのテクニックにまとめてみた。
プロがアートについて書くときの7つのテクニック
1.見えるものをそのまま書いてみる
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見えるものをそのまま書いてみる。誰でもできる、一番簡単な方法だ。
もちろん、プロはそれだけでも表現力豊かで、レトリックを駆使して「プロだな」と思わせるものがあるわけだが。
映画化もされた本『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』では、美術館で目の見えない白鳥さんに友達が、作品について見えるものをそのまま伝える。
この映画を見て以来、私はアート作品の前で「頭の中の白鳥さん」に作品について伝えてみたりする。伝えようとすると初めて見えるものがあるから面白い。
書くときも同様。まず見えるものをそのまま書いてみると、どんどん見えてくる。
2.連想し、作品から離れる
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「連想」は書くうえで必須の行為だ。
アート作品について書く=作品そのものについて語る、と思ってしまいそうだが、そんなことはない。作品から離れて別のことを語って良い。というか、むしろそれが当たり前である。
この展覧会にある文章のほぼ全てに連想が使われているし、「連想」という言葉自体も多く見られる。
例えば上の写真では、作品からマーブルチョコ→ロッテの香水ガム→自宅のベランダの風景と連想を展開する。
まずは作品を観察し、頭に浮かんだ別のことを書き出してみたい。そしてそこからさらに別のことへ連想をつなげていく。結果、作品から離れていくが、むしろ遠くへ離れれば離れるほど面白い。
ドット柄のカボチャ作品を語るのに、カボチャの話をするのはあまりに凡庸なのだ。その先の連想に、書き手の個性やセンスが出る。
連想を簡単にいえば、マジカルバナナだ。古くて、かえって分からない?
「バナナといったら黄色、黄色といったらレモン、レモンといったら酸っぱい、酸っぱいといったら……」
のように、リズムに合わせて答えていくゲームだ。 TVでやっていたのは1990年代、もう30年前か…。
3.著名人の言葉を使う
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特によく見られた手法がこれ。アートに限らず、一般的にも名言や著名人の言葉を使うことは、そのままその権威を借りることができ、何だかすごそうに見えて便利なのだ。名のない人ほどこれを使うと良い。
作品に関連した著名人の言葉を使うわけで、なかなか思いつかないかもしれない。とはいえ、小難しい哲学者や芸術家の言葉じゃなくても、映画やドラマ、漫画の言葉でも面白いだろう。
関連キーワードと「名言」で検索してみるのも良い。
4.五感で語る
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上記1のように「見えるものを書く」だけでは、視野が狭い。そこで2、3では、作品に見えないものを書く方法を伝えた。
さらに、見えないものを書く簡単な方法の一つが、五感を語ることだ。
例えば上の白い作品について、五感で連想を広げるとどうだろう?
鼻:「クリームシチューの香りがしてきそうな」
手:「うちの壁に似たザラザラした質感」
舌:「おしるこに浸した餅の甘さが思い出される」
耳:「はじめ!の声で鉛筆が走る音。あのテストの答案用紙」
作品をじっくり観察し、五感を働かせたら、あなたならもっと面白い言葉が出てきそうだ。そこからさらに連想をつなげていくのである。
「クリームシチューといえばお笑い芸人の上田さんは…」→「芸人でアート制作する人も多い」とか、
「餅といえば、お雑煮は地域によってかなり違う」→「この作品の作家・秋吉風人さんは大阪出身」→「大阪の雑煮は白味噌らしい」→「この作品の白は白味噌か、餅か」とか。
ワケ分からないが、それでいい。最後になんとなくいい感じに着地させれば、途中は雑談みたいなものである。
5.決めつけてみる
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どうしても我々は弱気になる。「他人の正解」にひるみ、「私は間違ってるかも?」と思ってしまうのだ。
作家や美術関係者の見方が正しくて、素人の見方は間違っているのだろうか?そんなことはない。
アート鑑賞は作品との対話だ。作家に説教されているのではない。
堂々と「私にはこう見える」と言えば良い。別に、アートをどう見たって良い。自由じゃないか。「私」が主語なら、間違いなどない。
上の写真では、黄色い作品をパチンコだと言い切っている。ユニークだ。パチンコをやらない私にその視点はなかった。
文章もアートと同じで、人と違うほど価値がある。「正しさ」など無視して「自分にはどう見えるか?」「自分はどう感じたか?」を素直に書けば、意外と個性が出るものだ。
6.アートを起点に自分語りする
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ここまで書いてきたようなテクニックを使いつつ、作品を起点に自分語りするのも面白い。必ず、他の人に書けないオリジナルになるから。
以前、お笑い芸人のピース又吉直樹さんの本『第2図書係補佐』を読んで衝撃を受けた。本を紹介する本だと聞いて読んだが、「人様の書いたものを評価するなんて恐れ多い」とのことで、本の評価や紹介ではなく、好きな本にちなんだ自身のエッセイが書かれているのだ。
アートについても同じ。作品を評価するなんて恐れ多い。アートに関する学術的な知識もない。そう思っても、作品から連想した自分のことならいくらでも語れるじゃないか。
もちろん、書く目的によりけりだが、きっと
「名もないお前のことなんか聞きたくない。作品のことを語れよ」
という読者もいるだろう。しかしそういう人には
「じゃ、自分の足で作品を見に行けよ」
「展覧会のサイト見ろよ」
と思っておけばよいのだ。
誰でも語れる「筆者が見えない文章」を書いていても、他の人でも代わりがきく。あなたしか書けない文章にこそ価値があるのだ。
7.逆を考える
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アートと同様に、文章にも驚きがほしい。我々が最初に思いつくような言葉は、たいてい誰でも書きそうなことである。それは捨てて、「他の視点はないか?」と考えてみたり、ひねってみるのが面白い。
遊び心、ユーモアを発揮したいところだ。
ユーモアなんて自分にはないし…と思うのなら、まずは作品を観察して「逆を考える」のが良い。常識を疑うことが、クリエイティブやイノベーションの起点になる。
秋吉風人の個展にある作品に《これは秋吉風人の絵ではない》というタイトルは、まさに逆を考えていて驚きがある。当たり前を疑っているのだ。
例えば上の作品を「黄色じゃない」と考えるとどうだろう?
例えば「信号の黄色は、赤と緑の光を混ぜて作られている」みたいな展開もできる。
作品をみて「逆に?」と考えてみよう。
さて、ここまで書いてきてふと気づく。
私は、あなたは、秋吉さんの作品を鑑賞したのだろうか?
アート作品とは、何だろうか?
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