【コソリテおすすめ本】『食品の「これ買うべき?」がわかる本』
コソリテスタッフのひはゆきです。
前回に引き続き、今回も食をテーマとした本をご紹介します。
食品の「これ、買うべき?」がわかる本 | 松永和紀 |本 | 通販 | Amazon
この本の推しポイントは、
・食品別に解説した「具体論」(第1~4章)
・食品についてのリテラシー全般について述べた「概論」(第5章)
の両方を押さえているところです。
著者の松永和紀さんは、科学ジャーナリストとして食品の安全やニセ科学の問題について、分かりやすい文章で執筆されてきた方です。「食」のリテラシーを身に付けるという観点から、お勧めしたい方の一人です。
以下、内容をご紹介していきます。
個別に見る「この食品の健康への良し悪し、安全性」(第1章~第4章)
この本の第1章~第4章は様々な食品について、健康に良いのか・悪いのか(良い・悪いといえるとしたら、どういう場合か)、安全性はどうなのかを個別的に論じています。
ここでは、第1章の最初に取り上げられている「オーガニック食品」を例に、見ていきます。
松永さんはオーガニックが「農薬を使わないから、安全」というのは間違いだと明言し、「化学合成農薬が体に悪い」という前提を否定します。むしろ、化学合成農薬等を「適量(←この量の概念は大事。定められた量を超えると、もちろん有害になります)」使う「慣行農業」の方が、作物のかび毒リスクが少なくなるというメリットを挙げているのです。
有機農業の意義は食の安全性ではなく、「環境負荷を低減する場合がある」ことだと解説します。
この本ではそこまで言及されていませんが、農林水産省も「みどりの食料システム戦略」という方針を策定し、環境に配慮した「環境保全型農業」を推進しており、その中に有機農業が含まれています。
みどりの食料システム戦略トップページ:農林水産省
これもあくまでも環境問題などを考慮するという趣旨で、食の安全や健康面は無関係です。
しかし、オーガニック食品を推す言説の中には、エビデンス(科学的根拠)に乏しいまま食品としての安全性を訴えるものも後を絶たず、ひどい場合は「発達障害の子どもが落ち着いた」などの情報も混じっています(私も発達障害児の親ですが、ただでさえ様々な苦労のある発達障害児本人やその家族が、このような根拠のない情報に振り回され、追い込まれてしまう可能性があり、心配です)。
この本では、おそらくはそのような現状も踏まえた上で、過不足なく、読みやすい形で1つの節にまとめられています。
その後も、このような各食品を個別的に取り上げた解説が、第4章まで続きます。例えば、卵を買うときには「卵」の節を見れば注意点が分かるというように、目次から食品個別の情報に当たることができるようになっているので、実用書として便利な構成になっています。
食品リテラシーの身に付け方(第5章)
第5章「あなたを守るリテラシーを身につける」は、それまでの章とは異質な内容になっています。消費者の視点で「買うべき?」「食べるべき?」を判断するための「リテラシー」全般が、解説されています。
「栄養成分表示の読み解き方」などの食品ならではの節もあれば、「エビデンスって、なに?」「陰謀論の見分け方」と「食」以外の情報にも応用できるリテラシー般についての節もあります。
この「エビデンスって、なに?」「陰謀論の見分け方」の2つと「はじめに」「おわりに」を読むだけでも、リテラシーを身に付けるための基本がかなり押さえられるのではと感じました。ここで書かれているポイントを、私なりの整理で列挙していきます。
①情報を判断するには、エビデンスと「量の概念」が重要。
②エビデンスのレベルには高低がある。
③陰謀論に取り込まれないためには、情報の出典元を確認すること(国や自治体の出す情報は信頼度が高い)。また、その情報により、誰が得をするのかを検討するのも有益。
④公的機関は科学的な情報を発信を続けている。多くの論文も無料で公開されている。ただ、その量が膨大で科学的であるが故に、一般の人たちにわかりづらい面もある。疲れた場合は、いったん、情報から離れた方がよい。
私はこれを読んで、①~③と④は表裏一体かもしれないと感じました。
エビデンスのレベルを検証するのも、「量の概念」を考えるのも、素人にはハードルが高い。
一方で、陰謀論の方は、国や自治体の情報を恣意的に引用したり、エビデンスがあるはずの情報を「企業がもうけようとして、その情報を流しているんだ」ということにしたり、巧妙なものも混じっています。③は基本的な考え方として納得しかないのですが、それを踏まえても、なお情報の真偽を判断するのが難しくなっているのが現実です。
そこで、④の考え方が大事になってきます。
情報の真偽を追うのは限界がある。だから、一度判断を保留して、離れればよい。その選択肢を示してくれたのは、素人の目線に寄り添った記述だと感じました。
さいごに
この本は、2024年12月発行で情報が新しいのも特長です。
紅麴サプリメントの食中毒事件など、最近の状況も踏まえて書かれています。
エビデンスに基づいた情報が日々アップデートされていくことを考えても、この本を読む意義は大きいと思うのです。