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ホラー小説のネタバレなし読書感想『血腐れ』矢樹純

マジで怖かった〜〜〜!!

ホラーはいくつか読みましたが、不穏さを感じつつ終える後味の悪さもふくめて、本作は見事にホラーをやっていました。

それも単に怪異が出てきて暴れまわるような、サメ映画ではなく、人間の業の深さを描いた「ヒトコワ」の要素アリアリです。

本作は全6篇のオムニバスホラーとなっていますが、ミステリー要素あり、ヒトコワのサイコパスあり、そこに襲いかかる怪異のホラーありと、一話一話に恐怖が凝縮されています。

一話が50ページに満たないので、読みたいときにもいつでも読める、手軽な文庫本としてもオススメできます。

……バッグに入れて、会社や学校の休憩時間に読むのもよし。

……忘れたころに読み返して、また背筋の寒くなる恐怖の感動を、再び味わうのもよし。

作者の矢樹純さんのプロフィールを拝見すると、漫画原作者としてのスタートだったと聞き、うなずけるところもありました。

今作も読みやすい文字選びをされており、へんにこだわった癖のようなものもなく、エログロ表現も控えめで……だけど、怖いところは本当に怖く、書いてありました。

先にあげましたが、ヒトコワの要素もある、ミステリとしてのジャンルにも足を着けており、読み終えてはじめて、全体の構図がわかる短編作品集となっています。

怖いだけでなく、ニヤリとさせられるところもあって、登場する悪人たちには、それ相応の“報い”があります。

そこも面白く感じたところですね。

個人的には、一番最初の「魂疫(たまえやみ)」が一番こわく、四話目の「爪穢(つめけがし)」は読了後にめまいをもよおすような、不穏さを覚え、逆に最後の「影祓(かげはらえ)」は、ハッピーエンドといえるすがすがしさがありました(でも、怪異の出所が神道の祟りのようで、やっぱり怖い!)。

ジェットコースターのような怖さではなく、ヒトコワのいやらしさと、心霊ホラーなので、ぞくりぞくりと足の先から冷たく怪異が這い上がってくるような……そんな、一篇一篇を最後まで読み終えることで完成する恐怖体験でした。

人間関係というよりも、家族間である、トラブルの話も多く、「他人は逃げられるけど、血のつながった身内の怨恨は怖い」と強く感じさせられましたね……。

また、身内が招いたトラブルの厄をかぶるお話もたくさんあります。

「こんなお話は、ホラー小説のなかだけで十分だ!」……けれど、だからこそ、対岸の火事のように、災厄をかぶる登場人物たちを哀れに思いつつも、そこに描かれる人の業の姿に、共感させられる作品集でした。





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