ブルジョア高校生 ダビデの博打 ② 【創作大賞 漫画原作部門】
前回までのあらすじ
高校生、大本ダビデは友達二人をつれて
ヤクザの運営するポーカースタジオに
乗り込んだ。
これからポーカーゲームが始まる。
【ルール】
「今からポーカーをしてもらう」
インテリ系は立ち上がり、説明を始めた。
彼の視線はダビデ君に向けられた。
「なんて呼べば良い?」
「ダビデとお呼びください」
ダビデ君は立ち上がり、深くお辞儀をした。
インテリ系は満足げに頷き
次にパワー系ヤクザに目を向けた。
「俺は田所だ。ディーラーをやる。
相手になるのはこいつ、武蔵だ」
武蔵は腕組みを崩さず、ダビデ君を睨みつけた。
まるで獲物を狙う猛禽のようだ。
「ダビデ君と武蔵以外は席を立ってくれ。
ゲームを始めよう」
ダビデ君と武蔵が向かい合ってテーブルに座る。
中央には田所が控えている。
ダビデ君の後ろには僕と西本が立ち
武蔵の背後にはモブヤクザ2人が配置された。
「ルール説明を兼ねて、仮のゲームをする。
まず、勝負は1対1で行う」
田所はテーブルに8枚のカードを広げた。
「使うのはこれだけだ」
「次に、チップは1枚1万円。
それぞれ100枚ずつで始める」
田所はダビデ君と武蔵の前に
100万円分のチップを並べた。
そしてカードを手に取り、シャッフルを始めた。
「まず、2枚を伏せる。次に2枚を開いて置く」
「手札は2枚だ」
ダビデ君と武蔵に2枚ずつのカードが配られる。
「1ターン目は、先攻がカードを1枚伏せて
チップをベットする。
後攻も同じようにカードを置き
チップをベットする」
ダビデ君と武蔵は手札から1枚を選んで伏せ
チップを5枚ベットした。
「ゲームを降りるのはどのタイミングでも良い。
ただし、降りる前にかけたチップは
相手のものになる。
自信があるなら、さらにベットしても良い」
武蔵は冷笑を浮かべながら
チップ10枚を追加した。
テーブルチップ ダビデ 5枚 武蔵 15枚
「この場合、ダビデ君は同じ数のチップを出すか
それ以上のチップを出さないと
次のターンに進めない」
ダビデ君は武蔵と同じ枚数になるように
チップを追加した。
「2人の出したチップが揃ったのでカードを開く」
「ここでの数字は勝敗に関係ない。
次のカードを出してくれ」
ダビデ君と武蔵は再びカードを1枚伏せ
チップをベットした。
「2ターン目のカードで勝敗が決まる。
基本は数字の大きい方が勝ちだ。
勝者は、テーブルチップを総取り出来る。
ただし、Aは4に勝つ。
この場合、テーブルチップの倍額を請求できる」
田所は、2ターン目のカードを開く。
「これはダビデ君の勝ちだ」
田所は勝利宣言をした。
武蔵はルール説明にも関わらず苦々しい顔をする。
負けるのがよほど嫌なのだろう。
ダビデ君の表情は変わらない。
「もうひとつ、追加ルールを説明する。
ここに白紙のカードが2枚ある。
これにルールを1つだけ書くことができる。
ただし、勝敗を直接決めるような
内容は認めない」
田所は無地のカードを2人に配った。
「例えば、『無条件に俺が勝つ』なんてのは
駄目だ。書いたカードはチェックする」
ダビデ君と武蔵はそれぞれカードを書き始めた。
武蔵はすぐに書き終えたが
ダビデ君は考え込んでいる。
「遅いなー!頭、悪いなー!」
と武蔵はあおる。
田所はいさめるように頭を叩く。
「馬鹿をこぼすな。考えて喋れ」
ダビデ君も書き終え、田所にカードを渡す。
田所は少し驚いたような顔をしたが
すぐに表情を引き締めた。
「これで良いのか?」
「もちろんです」
ダビデ君は自信満々に答えた。
僕はダビデ君の耳元で囁いた。
「向こうには絶対負けない必勝法があるんだ」
不安な気持ちを察したダビデ君は
「心配してくれてありがとう。
でも、俺が勝つから」
と答え、テーブルに向き直った。
こんな状況でも、彼は涼しい顔をしている。
負けるなんてことは考えてないようだ。
【ゲームの必勝法】
田所はゲームをセットしながら考えた。
このポーカーには必勝法がある。
例えば、下図のような場合は
2ターン目の前に勝利が確定する。
他にも、配られた時点で
勝負が決まっていることがある。
例えば、下図の場合には
配られた時点で勝敗が決まってしまう。
この場合、相手にベットさせるかが課題になる。
田所は武蔵のことを一瞥した。
こいつの頭が悪いから特殊カードを作ったが
ダビデは見抜いているのだろうか?
田所はカードをテーブルに伏せた。
【ゲーム①】
「始めるぞ」
「先攻は武蔵からだ」
武蔵はにやりと笑い、1枚カードを伏せ
チップを張った。
「まずは5枚だ」
ダビデ君はゆっくりとカードとチップを出す。
「同じく5枚」
田所がカードを開く。
「次のターンだ」
武蔵はカードを叩きつけるように置き
「30枚だ!」
と乱暴にチップを出した。
武蔵の口角は裂けそうなほど上がり
プロレスラーのようにダビデ君を煽る。
「勝負だ!勝負!かかって来いよ!」
ダビデ君は首をひとひねりし
「降りるよ」と宣言した。
田所がカードを開く。
「しょうもねーな!
勝負しねーからクソザコなんだよ!」
武蔵は頭を突き出し、肩を揺らしながら
ダビデ君に悪態をつく。
4がもう無いのに勝負出来るわけがない。
ここは降りて当然だ。
僕は心配そうにダビデ君を見つめた。
残りチップ ダビデ95枚 武蔵105枚
【ゲーム②】
「続けるぞ」と田所はゲームを誘導する。
「俺からだね、10枚だ」
ダビデ君はほほ笑みを浮かべ
チップとカードを置いた。
「そう!それで良いんだよ。俺も10枚だ!」
武蔵は自信満々にチップとカードを叩きつけた。
田所がカードを開く。
「次のターンだ」と田所が促す。
ダビデ君は淡々とした声で言った。
「10枚だね」
「俺も10枚だ」
2人のカードとチップがセットされた。
カードが開かれる。
「ドローの場合どうします?」
とダビデ君が尋ねる。
「ノーカンだ。チップを戻せ」
田所が答えると、武蔵は悔しげに手を振り回した。
「クぅぅぅ!2倍取り損ねたぜ」
と悔しがった。
ダビデ君は額に指をあて
「それは無いね」
とつぶやいた。田所が彼に目線を走らせ、
「今、なんていった?」
と聞いた。
「内緒です。」
ダビデ君は微笑んでいるように見えた。
残りチップ ダビデ 95枚 武蔵 105枚
【ポーカーの戦略】
田所はトランプを混ぜながら考えていた。
ポーカーには“タイト”というプレイスタイルがある。
勝てる時にだけ勝負に出るスタイルだ。
このゲームで言えば、2ターン目に4、3を持っている場合のみ勝負に行く。
なぜなら4、3は勝率66%だからだ。
1と2は33%しか勝てない。
だから1ターン目で1、2を捨て
2ターン目に備える。
さらに、3、4の手札なら
2ターン目に4を1で刺されるのを避けるため
1ターン目に4を捨てる。
武蔵はこの戦略で特殊カードを使えば負けない。
100%勝てる形が出来ているにも関わらず
不安になる。
ダビデはあの特殊カードを
どう使ってくるのだろうか?