読書の秋 犬を扱った小説と漫画
今回は犬がからむ小説と漫画を紹介したい。私は犬好きなので、犬が出てくる物語が好きだ。
稲見一良さんの「セント・メリーのリボン」 1993年発表
主人公の竜門卓は猟犬をメインとした犬探しの探偵、猟犬は動物を追っていて、そのまま行方不明になることがある。その場合不慮の事故が多い。また優秀な猟犬は盗難にもあう。そんな犬達を竜門は愛犬ジョーと探す。
そんなある日、暴力団組長の女から盲導犬の捜査を依頼される。その盲導犬の捜査において、盲目の少女と知り合う竜門。誇り高き男からのクリスマスの贈り物「セント・メリーのリボン」。今は希少な日本の正統派ハードボイルド小説だ。
その続編「猟犬探偵」稲見一良 1994年発表 そして、この年に稲見さんは亡くなる。
稲見一良さんの小説で、初めて私が手に取ったのは「ダック・コール」それは2004年だった。
物語はオムニバスに近い、ハードボイルドと幻想の入り交じった話で。その自然描写と男達の友情と孤高の生き方が描かれている。
日本でこのような小説を書ける人がいたのに驚いた。
物語のプロローグ、若い自然写真家が、クライアントから依頼された日の出の写真を撮るために入念に準備していた。そして絶好の夜明けが訪れる。しかし、そのシャッターチャンスの一瞬。彼は日本では稀なシベリヤ・オオハシシギを見つけてしまい。その瞬間にカメラを鳥に向けてしまう。千載一遇のチャンス、仕事を投げ捨てる潔さ、このシーンで心を掴まれた。
ダック・コールを読んだ後、稲見一良さんの作品をこれから色々読みたいと思ったが、すでに亡くなっていた。
調べて見ると、1985年肝臓癌の手術を受けるが全摘ができないと分かり、自分の生きた証として小説家活動に打ち込んだそうだ。
1989年『ダブルオー・バック』にて本格的に小説家デビュー。
1991年『ダック・コール』にて数々の賞を受賞し期待されるが、1994年わずか9冊の本を残して癌のため没した。狩猟と猟銃の知識を生かした本格的なハードボイルド小説が多い。私はなんとかその8冊を手に入れた。
この稲見一良さんの「セント・メリーのリボン」「猟犬探偵」を原作として谷口ジローさんが漫画にしている。
私は谷口ジローさんの描く漫画のファンなので、これは最高だった。また谷口ジローさんも稲見一良作品のファンであった。やはり感性が共振するのだろう。谷口さんは海外でも人気のある漫画家だ。
「猟犬探偵」 谷口ジロー 2021年刊行
これは谷口ジローさんの人と動物の物語の傑作だ。
「犬を飼う」 2018年刊行 復刻版だ。
老犬の最後を看取るオリジナルストーリー。心が穏やかになる話だ。今や大人になって家を出た娘2は、子供の頃、私の本棚からこの本をくすねて持ち去っている。だから私は復刻版を買った。
過去、愛犬を看取った経験がある人の心には絶対に心に刺さる。そして愛犬を思いだすだろう。
そして谷口ジローさんも2017年亡くなっている。
最後は翻訳小説
ボストン・テランで一番好きな本。
「その犬の歩むところ」 2017年6月
理不尽な人間の暴力と自然災害を相手とした犬の物語。最後は希望の光が見えて読後感が最高の本だ。読み終わった後、表紙を撫でている自分がいた。
犬の名はギヴという。
ある事件で迷い犬となるギヴ、偶然優しい少女に拾われる。運命の定めか、ハリケーンカトリーナによって悲劇が起こる。
少女と別れた後、囚われの身となるが、その檻を食い破り、傷だらけとなり山道をさ迷う。そこで傷ついた帰還兵と出会う。
犬と出会い別れる男と女たちと、そこに静かに寄り添う気高い犬の物語。犬がこんなにハードボイルドに描かれるとは凄い。
ボストン・テラン(Boston Teran、本名・生年非公表)
アメリカ合衆国のイタリア系アメリカ人作家。ニューヨーク市サウス・ブロンクス生まれ。覆面作家であり、性別も不詳である。
世界を満たす暴力と理不尽に闘って傷つく少女達を描く、大好きな作家だ。そのテランが描く犬の物語、思わず読後に涙が流れていた。
以上、手に取れる範囲での紹介でした。