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「人新生以後のアート」という話
まえがき:人新生とは何か
現代は「人新生(Anthropology)」と呼ばれる地質年代の時代だとされます。この概念を提唱したのはノーベル化学賞受賞者のパウル・クルッツェンです。
オゾンホールに関する研究でノーベル化学賞を受賞した大気化学研究の大家であるクルッツェンの造語「人新生」には、「人間の活動が地球に地質学的なレベルの影響を与える」(吉川浩満)という含意を込められていた。
人新生の意味としては、1万2千年前に始まった「完新世」の次の地質年代を指しています。「人間(Anthropo)」と「世(cene)」という言葉の成り立ちからわかるように、人間が地球環境に対して大きな影響力を持つ時代を意味しています。
環境史家のJ・R・マクニールとピーター・エンゲルゲは、人新生の開始を1945年に設定しています。本稿では、こうした地質年代における芸術の可能性とその存在意義について考えていこうと思います。
第Ⅰ章:脱中心化するアート
人新生は、人間の活動が地球環境に大きく影響を与える時代であることを意味しますが、それは人間がこの地球上で絶対的で、中心的に影響力を持っていることも意味します。
現代の環境問題は、こうした人間中心主義が原因であると指摘されます。この指摘については、後で詳しく検討するとして、だとするならば、人間中心主義的な人新生を脱することが持続的な地球環境の維持に必要かと思われます。つまり、脱人間中心化された地質年代であるポスト人新生を考える必要があるというわけです。ポスト人新生とは、脱人間中心化された地質年代です。
では、ポスト人新生の芸術、脱人間中心化された芸術について考えていくために、そもそも脱中心化とは何かを考えてみましょう。美術批評家の山本浩貴は著書『ポスト人新生の芸術』で「脱中心化」について次のように述べています。
「脱中心化」とは何か。スイス生まれの心理学者ジャン・ピアジェは、子どもが成長の過程で「自己中心的な形の因果や世界観」から抜け出す現象を指してそう呼んだ。一般化すれば、脱中心化とは固定された単一の「因果や世界観」以外の複数の視座から別様に世界や物事の様相を眺めようとする試みであると規定できる。
美術史における脱中心化を考えると、真っ先に思い浮かぶのが哲学者ヴァルター・ベンヤミンの「歴史の天使」です。ベンヤミンは、パウル・クレーの絵画「新しい天使」を引き合いに出しながら「歴史の天使」という概念を打ち出しています。
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