「絶滅に向けて」という話
まえがき:生誕という問題
「生老病死」という言葉があります。人間が存在することによって生じる四つの苦しみを表す言葉とされ、生きることの苦しみ、老いることの苦しみ、病気になることの苦しみ、死ぬことの苦しみを指しています。
人は生まれた瞬間から様々な苦しみを経験します。例えば、対人関係での苦しみ、お金がなくて欲しいものを買えない苦しみなどでしょう。
では、何故私たちはこれだけ苦しい人生を送らなければいけないのでしょうか。その理由はシンプルです。「生まれてきたから」です。私たちの不幸の源泉は「生誕」にある。哲学者のエミール・シオランは次のように述べています。
「この世に生まれ出る」こと、それこそが「本物の不運」なのだとすれば、「人は生まれるべきではない」と帰結されるでしょう。このような人間の誕生、出生に反対する立場を「反出生主義」と言ったりしますが、本稿ではこの反出生主義について考えていこうと思います。
第Ⅰ章:メリトクラシーと親ガチャ論
「親ガチャ」という言葉を最近よく耳にするようになりました。「親は選べない」「どの親の子として生まれるかで人生は決まる」ということを意味する言葉です。
残酷な真実ではありますが、実際、遺伝や家庭環境などは人生の方向性を大きく左右します。どの親の元に生まれてくるかで人生は大きく変わります。これは個人の努力ではどうすることもできない残酷な現実です。
私たちは親による影響によって人生の方向性が変わりやすい社会を生きています。そのような社会を「ペアレントクラシー」と言います。教育学者の志水宏吉はペアレントクラシーについて次のように述べています。
ペアレントクラシーという言葉はイギリスの社会学者フィリップ・ブラウンが生み出した言葉です。ブラウンはペアレントクラシーの歴史を次のように整理しています。
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