【書評】ブルース百歌一望
日本で出版された、ブルースに関する書籍や雑誌を好んで読んでいる人なら日暮泰文(ひぐらし・やすふみ)さんを知らない人は居ないだろう。日本にブルースを根付かせようと奮闘し実現させた、ブルース・ライターのオリジネイターのひとりである。今年(2024年5月)惜しまれながら75歳で逝去された。
本書は2020年の上梓。タイトルに表されている通り100曲(+1曲)のブルースを取り上げている。ジャンルで縛るとブルースの範疇ではないものもあるが、体裁はともかくひとつの曲に込められている“ブルース感覚”をあぶり出す事でブルースの魅力を語っておられる。取り上げたミュージシャンは短い文章の中でリアルな存在となり、その人間性や背景となる社会を仔細に表現し、全体的にロマンがまぶされている。
深く読み解くと、黒人を取り巻く社会問題からそこから生まれる人生哲学なども見えてくる。ブルースはどうしても人種問題を歴史的に遡っていかなければ理解が不十分に終わる。前段で「ブルースの魅力」という言葉を使ったが、そんなにスマートなものではない。もっとブルースの世界に沼らなければ腑に落ちないディープさがある。日暮さんの文章の奥には澱のようにブルースの世界が沈殿している。しかし、それは暗いだけで終わるものではない。やはり深いのだ。ダークではなくディープ、それがブルースだ。
本書のタイトルは、百の歌を題材にブルースの世界を一望するとも読めるが、百の歌の中の一つの望みと読めなくもない。ブルースがただ暗いだけではこれだけ長い年数残り続けない。その中にある逞しさ、力強さ、明るさ(もしくは明るく振る舞う力)が感じ取れるから聴く者に感動をもたらすのだ。しつこく書こう。ダークではなくディープ、それがブルースだ。
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