柔らかく履きやすい革靴の秘密 ファクハクで革靴の工場を見学する
静岡市のオープンファクトリーイベント「ファクハク」で前田工業の靴の製造工場を見学した。以前の仕事で色々な工場を見たが、靴は初めて。職人さんの技術を間近で見られて、自分が使っている商品がどのように作られているか知ることができるのはうれしい。
予定の時刻より早く着いたので、会社に併設された自社ブランド「Recipe」の直営店で靴を試着してみる。普段履くのはスニーカーが多いが、ヒールの低いパンプスならこれからの季節にも良さそう。
参加者が揃い、さっそく前田社長の案内で工場見学へ。工場では1日300足を生産している。パタンナーの向坂さんの机の上には木型や型紙がある。現在は25年の春物をデザインしているそう。「ミシンで簡単に縫えることが大事。量産、コスト、美しさを両立させるデザインを心掛けている」と言う。
工場ではアッパー、底、中敷、中底という4つのパーツから靴を作る工程を見る。中敷を入れる、底を接着するなどの作業を職人さんが手慣れた様子で行っていく。製造途中の靴を触らせてもらうとまだ温かい。中底には最上位の紙が使われており、ここにも日本の高い技術をうかがい知ることができた。
「アッパーを縫うのは東北の兼業農家さん。稲刈りの時期は忙しくて縫う時間が取れない」と笑う社長。現場を知るからこその説明がリアルで楽しい。「他の靴メーカーとの違いは何ですか?」と質問すると、「革を漉いて折るという工程は高齢の職人には難しいので省くようにした。ミシンをかける長さを短くしたり、既存の常識にとらわれないで工夫している」と教えてくださった。靴のアッパーの切りっぱなしの部分にもそんな理由があったのかと驚く。工場を見学して、革靴一足にもデザインから仕上げまでこだわりが詰まっているんだと実感した。
どうしてこんなに工場は魅力的なんだろう。機械が動く音、独特の匂い。毎日働く職人さんにとっては過酷な状況でもあると思う。それでも長い年月をかけて育まれた技術がにじみ出ているようで、パソコンが整然と並ぶオフィスにはない味わいがある。また機会があれば、違うジャンルの工場も訪れてみたい。