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このあいだ(第6号 2021年3月)

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フリーペーパー『このあいだ』第6号に掲載のエッセイを2本収録しています。
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「エパタ」(『このあいだ』第6号 2021/3)

「エパタ」(『このあいだ』第6号 2021/3)

 目の底に堆積するような疲れに、椅子に座り込んで市販の目薬をさす。そんなとき、ああ、このまま電気のひもを引っ張るみたいにして、それっきり目が見えなくなったらどうしよう、と思う。

 子どもの頃から、「盲人の目が開いた」とか「唾を吐いて作った泥を目に塗ったら見えるようになった」とか、その手の話ばかり読んできたので、逆に視力を失うという事態への対策が私にはまるでできていない。何度めかの「どうしよう」で

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「見て見ぬふりの天国」(『このあいだ』第6号 2021/3)

「見て見ぬふりの天国」(『このあいだ』第6号 2021/3)

柳美里『JR上野駅公園口』河出書房新社、2014

「わたしの父の家には、住まいがたくさんあります。もしなかったら、あなたがたに言っておいたでしょう。あなたがたのために、わたしは場所を備えに行くので す。」(ヨハネによる福音書14章2節)

 ジョン・レノンの「イマジン」がなぜ「天国はない、と想像してごらん」と歌い始められるのか、ずっと気にかかっていた。
 それはあまりに辛いのではないか。伴侶を

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