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2つの偉大な犯罪ノンフィクション。

人はなぜ殺人を犯すのか?

長年に亘り酷い仕打ちを受け続けて、ついに我慢出来なくなり…とか、大切な人を奪われてその報復として…というのなら動機としては理解可能です。

しかし、とても些細な事で。或いは全く無意味に殺人を犯す者もいます。その事で自分に何も利益が無いのに…。

そもそも人はなぜ犯罪者になってしまうのか?
彼らは生まれながらに犯罪者なのか?
彼らと我々とを隔てているものは何なのか?

そういった様々な疑問に正面から向き合い、事実を克明に記録した2冊の本があります。その内容は犯罪者を擁護するものでは決してありません。しかし彼らが犯罪を犯す前…その人格形成期も描かれています。

一方は著名な小説家によって。
もう一方は実の弟によって。

「冷血」トルーマン・カポーティ著

「心臓を貫かれて」マイケル・ギルモア著

皆様は両方、もしくはどちらかをお読みになった事はありますか?今回は僕がとても衝撃を受けたこの2冊をご紹介したいと思います。

ますはトルーマン・カポーティの「冷血」から。

この本は「ティファニーで朝食を」で有名なトルーマン・カポーティが書いていますが、その内容もイメージも全く異なり、同じ作家の作品とは思えないくらいです。

以下ネタバレ含みます。ご注意下さい!

1959年にカンザス州で、ペリー・スミスとディック・ヒコックの2人による一家4人殺害事件のノンフィクションであり、基本的には事件発生から終結までを描いています。

ただその過程においてカポーティは犯人に綿密な取材を行い、自分と犯人との間にある種の信頼関係を築き、やがては親しみを持ち、彼らの不幸過ぎる生い立ちに同情、共感を覚え、しかし許されざる罪を犯した者として、報いを受けるべき(作品を完成させる為にも)という思いとの狭間で苦しみます。

殺人事件を扱うノンフィクションとしては異例のベストセラーとなった本作を書き上げるのにカポーティは自身に残された「書く力」の大部分を使ってしまったかのようです。

この作品の読後感としては…無意味な脱力感というかやるせなさというか…。犯人の一人ペリー・スミスには同情を禁じ得ませんが、だからといって許される事はありません。もちろん。ただただ何故?何故?何故引き金を引いたのか?何故止められなかったのか?それだけがずっと悔やまれます。誰一人幸せになった者はいないのです。カポーティ自身も含めても。

続いて「心臓を貫かれて」です。この作品はマイケル・ギルモアさんという人が書いています。彼は2人の人間を無意味に射殺して、自ら望んで銃殺刑になった有名な殺人犯ゲイリー・ギルモアの実弟です。本作は村上春樹氏の翻訳です。

本作は弟が兄の事を書くという形ですが、兄だけというより家族全体の事を書いています。両親の幼い頃から物語は始まります。「冷血」があくまでも殺人事件の話なのに対し、こちらは家族の歴史の話であり、その終盤に殺人事件が起きるという時間軸です。

以下ネタバレを含みます!ご注意下さい!

「呪い」というキーワードが出現します。とても非科学的な言葉ですが、そう考えるのも無理はないと思うほど不幸が重なったら?人はそれを「呪い」と呼ぶのかも知れません。

ギルモア家にはフランクJr.、ゲイリー、ゲイレン、マイケルの4人の男兄弟がいます。父親は詐欺師。各地で詐欺を働き発覚すると他所の土地へ移り住むという暮らしをしていました。

支配的な父親は上の3人の子に対しては凄まじい暴力と虐待を繰り返しました。末っ子(著者)はかなり年が離れていた為その対象にはなりませんでしたし、兄達が父親からそんな扱いをされている事もあまり知りませんでした。

結果、長男フランクJr.は服従と自己犠牲、ゲイレンとゲイリーは犯罪へとそれぞれ逃避して行きました。

そしてゲイリーはその生涯の殆どを塀の中で過ごす事になり、遂には無意味な殺人を犯します。何故そんな人生になってしまったのか?

答えはシンプルです。

ペリー・スミスやゲイリー・ギルモアは"誰からも愛されなかった"から。もしくは彼らに与えられた愛情は充分ではなかったから。それは彼らの母親も含めて。

もし少なくとも誰か一人でもそれに気づいていたなら…いやもう手遅れだったでしょう。そういった事は幼少期に与えられるべきものなのだから。

日本でも死刑が執行される度に死刑制度の是非が問われます。
死刑を廃止している国も多いです。
彼らは死刑制度を持つ国を批判します。

僕はこの2冊を読むまではどちらかと言うと死刑制度は必要なのでは?と考えていました。でもやはり難しい問題ですね。被害者の思いももちろん大切だし…。簡単に答えは出せませんが、少なくとも真剣に考えるきっかけにもなりうる2冊だと思います。もしまだ読んでいない方は是非お読みになってください。


僕、一応こんな曲をリリースしているミュージシャンです。


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城南画報
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