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『「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか』今井むつみ
人間間のコミュニケーションの根底にある構造的な問題を、認知科学の観点から解き明かそうとする本です。極めて示唆に富んだ、興味深い論考でした。
各人の頭にはスキーマと呼ばれる思考のフィルタがあり、知覚した情報は必ずそれを通って認知されます。これが個人個人の素養や経験値によって全く異なるため、同じものを見たり聞いたりしても認知のされ方は人によって全く異なるものになるのです。この枠組みを知っておくことだけでも、他者とのやりとりでの齟齬への許容度が上がるように思います。
様々な思考バイアス、すなわち思い込みや決め付けについても、明快に分類されつつ、具体例が挙げられています。他者については勿論のこと、自分自身についても心当たりのある事ばかりで、つくづく考えさせられました。固定観念を取り除くのは簡単ではないですが、その存在を自己認識しておくだけでも、物事を冷静かつ客観的に判断するための助けとなると思います。
ますます狭量かつ不寛容になって来ている現代社会において、著者が説くこの思考の枠組みの認識は、世の中を少しでも良い方向に持って行くために、大きな意味を持つ筈です。
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[2025/01/18 #読書 #何回説明しても伝わらないはなぜ起こるのか #今井むつみ #日経BP ]