踵が痛いの何~んだ?
ベテランの女性キャプテンと手動のVFR(有視界飛行)で飛んでいた時のこと。刻々変わる強い横風を受けて、シップもそれに合わせて方位を微調整していました。ほんの1-2°機首を振る際に、ラダーをちょっと踏み込んで程よい方位に向けるのですが、今日の彼女はどうも上手く行きません。「なかなかバッチリ決まりませんねぇ?」と伝えると、「今日は踵が痛むのよ!」と不具合の理由を告白しました。
なるほど彼女の足元をチラチラ覗き込むと、本来両足を乗せている筈のラダーペダルから足を外して、操縦席の床に足底をべったり付けたり、逆にアキレス腱を伸ばすように足先を立てたりして、時折りストレッチしながら操縦していました。
かなり痛そうだったので、「一度、整形外科で診て貰ったらいいですよ!こんな操縦が続いたら、インキャパ状態ですからね。」とアドバイスしました。後日さっそく受診したらしく、「両足のレントゲン撮影で、きれいな足をしていますと褒められた!」と嬉しそう。「それじゃ、何がいけなかったのですか?」と聞き返すと、足底腱膜炎と診断されたと云うことです。
足底腱膜炎と云われてもピンときませんが、要は土踏まずの炎症のことです。足の裏には土踏まずと呼ばれるアーチ状の窪みがあり、そこには足趾と踵をつなぐ足底腱膜がモミジの葉のように張っています。この腱膜のおかげで、人間は地面からの衝撃を吸収して、軽快に走ったり飛び跳ねたり出来るのです。
ところが長い年月生きていると、足底腱膜は固くなって柔軟性を失っていく一方、体重増加で足底にかかる荷重が増えて、足底腱膜には過剰な負荷がかかるため、慢性炎症状態に陥ります。その痛みが踵に現れるのです。不思議なことに、踵痛は一晩休んだ後の起床時に強いので、踵に針が刺さったように痛んで、朝一番はつま先歩きになってしまう人もいるそうです。
女性の場合は、ヒールが高く、足先がすぼまったスタイリッシュな靴を好むため、足底のアーチが歪んで足底腱膜に不均等な荷重がかかって、一気に痛みが悪化することもあると聞きました。
近年のジョギングブームで、スティ先のホテルへランニングシューズを持参するエアマンが随分と多くなりました。何時間もじっと座って操縦する仕事ですから、フライト前後にランニングするのは大変良い運動習慣だと思います。けれども街中の硬いアスファルト歩道を走り続けていると、足底腱膜に重 度重なる負担がかかって、逆に炎症を惹起することが知られています。運動不足が慢性化しているエアマンは、もちろん健康上走ることのメリットが遥かに高いのは事実。対応策として少々お金を奮発しても、自分に足形に合った中敷き(英語ではarch supporterと言うそうです)を靴底に入れたり、昨今流行りの厚底シューズを買い求めるのが良いでしょう。
前述のキャプテンは、整形外科で痛んだ足底腱膜部位を超音波エコーとMRI検査で特定し、そこへ体外衝撃波を繰り返し発射して、血行を促進させて痛みを和らげてもらいました。(失礼ながら公然の秘密で囁かれていた...新人のチェックアウト時はslender bodyだったのが、機長昇格前後から急速にdynamite bodyに変容していったので...)やはり減量も勧められたそうです。「離陸重量は少しでも軽い方がいいですからね!?」と産業医からもやんわり指導されたとのこと。オレンジ色の可愛い厚底ランニングシューズを見せながら、笑顔で語ってくれたちょっと太めの機長を見て、動機づけの一言は実に大切と思い知った次第です。これからも頑張って、キャプテン!