触ってもない時計がパタンと倒れた話
語り歌う女優、こもだまりです。
プロフィール書いてたら間違って完全削除してしまいました!!!
なんで!!!(笑)
衝撃を乗り越えるため気分転換に、お題 #私の不思議体験 について書きます。
わたしの読書は、一人の作家の作品をなるべく時系列に続けて読む方針です。読む時に、語り口にチューニングする時間がいらないからです。
これまで何人かそうやって一気読みしてきましたが、20代でそれをした、大江健三郎さんにまつわるお話です。
大江健三郎さん
いわずと知れたノーベル賞作家ですが、もう齢80歳を超えています。
わたしが最初に読んだのは「新しいひとよ眼ざめよ」だと思います。
初期の「死者の奢り」を大学時代に読み始めて、なんかいまいち読めなくて諦めて、数年経って「新しいひとよ眼ざめよ」を読んでハマり、そこから遡って初期も読みました。
初期は硬質でモノクロのイメージ、中期の光さんが登場してからの作品はカラーのイメージです。初期の硬派は語り口もすごいけど、好みとしては中期以降の思想や揺れが好きです。
(作品紹介貼っておきます)
大江健三郎書店というイベントが近所で
そんなわたしは、当時池袋界隈に住んでいたのですが、池袋のジュンク堂で大江健三郎さんがトークイベントをすると知りました。
ミーハー的なファンという感情を持ちあわせないわたしですが、大江さんに関しては(普通著名人を呼ぶときは呼び捨てがセオリーなのに「大江さん」と呼びたいが故にそう呼んでいるくらいに)おそらくファンというやつなのでしょう。
近所なこともあって、当然「これ行きたい」と思ったんですが、なんというか…会いたいような会いたくないような。「会ってどうするんだ!」みたいな謎の感情の葛藤がありました。
会う、と表現しているのはたしか、トークのあとに質問を受け付けると書かれていたからです。とりあえずその日の仕事はオフにしました。でも前日も決めかねたまま眠り、朝起きて、それでもまだうだうだ悩んでいました。
「行くなら◯時には家を出ないと・・・」と思いながら目覚まし時計とにらめっこしていたそのとき、時計が、あちら側にパタリ、と倒れたのです。
倒れた時計に背中を押されて
不思議現象だったけど恐怖感はなく、「ああ、これは行けってことなんだな」と素直に感じて、すぐに出る準備をしてジュンク堂に向かいました。
ドキドキしながらトークを聞き、本を抱えて列に並び、長蛇の列にお店側も慌てて「このあと講演会があるので、ここで締め切らせていただきます」と言った最後が、わたしでした。
大江さんは作品から思い描く通りの方で(考えてみたら声も聞いたことなかったけど、イメージ通りでした)、愛媛出身の大江さんは香川出身のわたしの名字「薦田」を見て、話をしてくれました。
「お願いします」と大江さんに、サインしてもらうための名前を書いた紙と本を渡すと、大江さんは顔を上げて
「わたし、あなたにサインしたことありますか?」と笑顔を見せた。
「いえ、初めてです。この名前ご存知ですか?」
「はい」
「こもだ、と読みます。父が香川なので。私はずっと東京なのですが」
「松山のほうにも字は違いますがこもだ、という名前があるんです」
「狐みたいな字ですか?」
「古いに茂るに田です」
「役者のときにはひらがなで出ているので、ひらがなにするか迷ったんですが、大江さんがこの字をどう書かれるのかが見たくってこれにしました」
「役者、女優さんですか」
「一緒に仕事をしている、天井桟敷にいた昭和精吾という俳優の家に、大江さんのサインがありました(と携帯の画像を見せる)」
「(見て)はい、これは私のサインです。よろしくお伝えください」
(2006.6.11の日誌より)
noteに書いていますが、わたしは18歳で父を亡くしています。
だからその日、時計を倒したのは父だと思います。「行って来なよ」と。
サインの列でギリギリセーフだったのも、父のおかげかもしれませんね。
この日のわたしの大変なテンパリっぷりは、外部に詳しい記録がありますので、興味があればこちらへ。