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ジャガイモ と コーヒー

ドイツの食事と言えば、先ず、ビールとソーセージとジャガイモ。ドイツに詳しい方になるとこれにパンやリンゴ、キャベツ(ザワークラウト)なんかが加わる感じでしょうか?
勿論、今ではドイツでも世界中の様々な食品を楽しめるようになりましたが、かつては手に入る食材も限られており、豊かな料理文化や美食に恵まれていたわけではありませんでした。

そもそも、ヨーロッパ、アルプス以北の地域は気候や土壌からいって農耕には適しておらず、野菜や果実なども比較的乏しく、ライ麦や雑穀から作られる黒パンや、牧畜による肉や乳製品を主な糧としていました。

そういった中、現代のドイツの食生活に欠かせない食べ物にジャガイモとコーヒーがあります。ドイツに限らず、寒冷なヨーロッパでは広くジャガイモは食べられていますし、北欧などでも濃いコーヒーが好んで飲まれています。でも、ふと考えると、ジャガイモもコーヒーも、ヨーロッパには16世紀以降にもたらされて定着したもの… 特にジャガイモは、それぞれの国・地域で代表的な名物料理にまで発展していったことは、なんともスゴイことです。

ジャガイモの原産地は南米と言われ、新大陸発見に伴ってヨーロッパに持ち込まれました。寒冷地のやせた土地でも栽培ができるジャガイモは、まさにヨーロッパにうってつけの食糧だったのですが、土の中から掘り起こされる今まで見たことのない食べ物は、人々の偏見の対象となり長く敬遠されていました。
ヨーロッパでは当初、観賞用・薬用としてもたらされ、君主の庭園や大学の薬草園などで栽培が始まりました。とは言え、食用としての普及はなかなか進まず、近代の啓蒙思想の流れの中、ドイツでは新しい農業技術を伝授する聖職者や医師といった民衆に近い知識人の働きかけによって、ジャガイモ栽培が広がっていきます。ですが、実際にジャガイモを定着させ拡大する大きな要因となったのは、18世紀に起きた深刻な飢饉。この災害によって収穫率の高さ、寒冷耐性、栄養価の高さ、食味といったジャガイモの優れた特性が知られるようになり急速に栽培が広まっていきました。
ジャガイモがドイツの食文化に取り入れられたのは18世紀の末頃、実はとても新しい食材の一つなのです。
ドイツで栽培されているジャガイモは約130種類、うち約90種類が食用種で、後は飼料やアルコール原料用となっているそうです。
以前、ドイツ人の友人から「日本人はお米の違いにうるさいけれど、自分には違いが分からない。でも、日本人が気がつかないジャガイモの違いは分かる」と言われたことがあります。まさに、コメとイモの文化の差なのでしょう。

一方コーヒーは東方から伝播した飲料。コーヒーの原産地はアフリカのエチオピアですが、そこからアラビア半島に渡り、イスラム神秘主義教団で儀式に用いられるようになります。後、コーヒーの飲用は中近東全体に広がり、やがてヴェネツィアの商人たちによってヨーロッパへと持ち込まれ、オランダやイギリスへと波及していきます。コーヒーの伝播に伴ってコーヒーハウスの開業も開始。ドイツで最初のコーヒーハウスは貿易都市のハンブルクで開店しましたが、オーストリアではトルコ軍によるウィーン包囲時に撤退したトルコ軍が残していったコーヒー豆がきっかけと言われています。
コーヒーが広まるにつれ、コーヒーハウスだけでなく一般の家庭内でも飲まれるようになると、女性たちの午後のコーヒータイムKaffeekränzchenカフェークレンツヒェンと呼ばれる風習も始まります。
ヨーロッパに伝来した当初、コーヒーは極めて高価な贅沢品。戦争やドイツ国内での自給品への需要から、チコリや麦芽といった安価な代用コーヒーが生まれたのですが、今では独特の風味と健康志向から代用コーヒーも支持を得るようになったそうです。
ドイツの飲物といえば、先ずはビールですが、統計によると1人当たりの年間消費量は、水よりもビールよりもコーヒーが多いとのこと。まさに国民飲料にまで成長したのです。

日頃からヨーロピアンスタイルとして何気なくいただいている食品も、実は比較的新しく、しかも海を越えて異国から持ち込まれたもの。
ジャガイモが困窮した農民や都市の下層住民といった社会の底辺層から普及した食べ物であるのに対し、コーヒーは貴族や上流層からステイタスを伴った流行の飲料として市民へ浸透していった飲み物というのもなんだか皮肉な感じがします。

ドイツからは離れますが、もっと不思議なのは16世紀以前のイタリア料理はトマトが入って赤くなかったということ。ちょっと気になって調べたら、なんとパプリカやズッキーニも新大陸からやってきたもの… 国際色豊かな食卓は欧州全体に広がっているようです。

参考文献:

世界の食文化 第18巻 ドイツ
南 直人 著

ジャガイモの歴史
アンドルー・F・スミス 著

コーヒーの歴史
ジョナサン・モリス 著


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