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乱世 と 天下統一 と 破格の森林採取 【日本・近世】
歴史的な記念建築物や壮大な都市造営… 繁栄の陰には膨大な森林資源の消失が潜んでいました。
現在は貴重な文化財として保護・保存されている建築物ですが、改めて見渡すと、実に多くの建物が集中して建てられた時代があります。
16-17世紀、未だかつてないほど森林資源を消費する時代が日本に訪れます。
16世紀の戦国時代。城に城郭・城壁はもとより居城や砦など、戦国大名たちによる戦争によって、破壊と建設が繰り返されていきました。
濠を巡らし石垣を築くのにも基礎的な建築材料として木材が必要です。さらに、門、塔、防御壁、兵舎、住居、貯蔵施設などの骨組みや板張りには量だけでなく、太さのある木材が求められます。
また、戦乱の世であれば、軍馬のための秣、料理や暖房用の燃料、刀剣、甲冑といった武具精錬用の木炭、砦の建築用材などが求められた他、矢、槍、防護柵や野戦での陣営などには竹材が使われていきました。
各地の大名は城の建設に加え、地元の寺社との繋がりを深めるべく縁ある寺院の建設と修復を行い、城下町を整備すると共に道路や橋を建設して経済活動を盛んにしていきます。
1570-80年代だけでも、北の庄(越前:福井)、亀山(丹波:京都)、姫路(播磨:兵庫)、岡山(備前:岡山)、広島(安芸:広島)といった名だたる城郭が築城、改修・改築されました。
とは言え、森林消費の最たる起因となったのは、天下統一を果たした豊臣秀吉。
1590年以降、日本の歴史で初めて国内すべての地域に大量の木材の寄進を求め、かつ受け取ることができた天下人のもとに、日本中から最高級の木材が集められ、豪奢な建築物が続々と建てられていきます。
豊臣秀吉が手がけた大事業には大阪城、聚楽第、伏見城といった城の造営の他、朝鮮出兵のための艦隊新造や拠点城郭の設営。
東大寺を凌ぐ規模の方広寺大仏殿を建設し、比叡山(天台宗)や、高野山(真言宗)の寺院群の再建を支援。他にも数多くの社寺の再建を支援したそうです。
後の時代を築いた徳川家康も、精力的に建設事業を進めていきます。
徳川家康の三大記念建築物として挙げられる、江戸城、駿府城、名古屋城の他、彦根城、膳所城(近江:滋賀)、篠山城、亀山城(丹波:兵庫・京都)、二条城(京都)、高田城(越後:新潟)といった要城に関わり、非軍事的建築物では桂離宮を筆頭に、京都の建築に力を入れ、公家の宮殿や邸宅を建て朝廷の華麗さを復活させていきました。
秀吉同様、寺院・神社の建築にも取り組み、江戸には徳川家の菩提寺となるの増上寺を建立しています。
江戸時代には、各地の大名は領内の城下町の建設を進める傍ら、参勤交代制度の下、江戸城近くに格式高く優雅で華麗な大名屋敷を構え、その豪華さを競い合うこととなります。
家康の死後、記念碑的な建築は急速に衰えていきますが、江戸城の増築、大阪城の再建、日光東照宮の造営、他にも老朽化、破壊された建物の修復など、木材の需要は尽きません。
近世に始まった外国貿易や日本国内の沿岸交易では、船の建造も必要とされました。
が… 最も巨大な木材需要は、度重なる「江戸の大火」であったと言われています。
日本の建築は他の文化圏と比べて極度に木材に依存しています。
瓦屋根、土壁、礎石などに土石は利用されていましたが、ヨーロッパのような石造り、レンガ、モルタルは使われなかったのです。
理由としては、石材として建築に利用できる岩石が少なかったことや、地震という災害の影響が考えられています。
建材として扱いやすい木材が容易に手に入り、快適な住まいに適していたからこその結果でもあるのでしょう。
16世紀最後の数十年は大名が林野の支配と管理を強化し、山林奉行、山奉行、山守などを設置しましたが、1670年頃までには九州から本州北部にかけて大規模な森林消失が広がり、17世紀末にはまとまった原生林は見られなくなっていました。
森林利用を巡る争いも各地で慢性化していく中、ついに、収穫林業から育成林業へと転換が図られていくことになります。
現在、里山といえば緑豊かな情景が思い浮かべられますが、かつての里山はなんと禿山であったとか… 浮世絵にその姿が残されていると言われ、思わずお茶漬け海苔のカードを思い出してしまいました。
さて、どんな山々だったか覚えていますか?
参考文献:
日本人はどのように森をつくってきたのか
コンラッド・タットマン 著
Ⅰ 採取林業の千年 / 第3章 近世の木材枯渇 - 1570 - 1670年
森林飽和
太田猛彦 著
2022年5月5日 立夏