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チョコレート と 砂糖

甘くてほろ苦い褐色のお菓子スイーツといえば、チョコレート。最近はカカオ含有率が高いチョコレートもポピュラーになってきたので、チョコレート / カカオそのものが甘いわけではなく、砂糖やミルクを加えることで甘く美味しくなっていることがよく分かるようになりました。

今では、板チョコやプラリネなどチョコレートといえば食べ物だと思いますが、固形のチョコレートが誕生したのは19世紀のこと。チョコレートはその長い歴史のほとんどの間、飲み物として供されていました。  

チョコレートの原産はメソアメリカ(現在のメキシコ南部、中央アメリカのあたり)といわれていて、すりつぶしたカカオ豆に香料などを加えた飲料として飲まれる一方、神への捧げものとされる貴重なもので、貨幣の代わりとしても使われていました。

チョコレートがヨーロッパに伝わったのは16世紀の大航海時代。
クリストファー・コロンブスが最後の航海となる第四次航海(1502年)にてホンジュラス沖のグアナハ島でマヤ人の交易船に積まれていたカカオに遭遇。彼らの態度からカカオが極めて貴重なものであることは分かりましたが、飲み物として飲まれていることまでは分からず、チョコレートを味わうことはなかったそうです。

16世紀後半になると、カカオはスペイン経由でヨーロッパにもたらされ、新世界へ渡った修道士や商人たちがチョコレートを旧世界に広める役割を果たしました。
カカオとチョコレート飲料を発見したのはルネサンス時代ですが、盛んに交易されるようになったのはバロックの時代に入ってからになります。
17世紀前半まで、チョコレートはメソアメリカ風に表面が泡や浮きかすのようなものに覆われた冷たく苦い飲み物として飲まれていましたが、これは慣れない者にとっては嫌悪感を覚えるようなひどい飲み物と評されていました。その一方、南米で長く暮らす者にとってはやみつきになるほど好まれており、互いの文化の交雑が起こることによって、チョコレートは変容を始めていきます。
ヨーロッパに渡ったチョコレートは、熱い飲み物として、甘味や、シナモンやアニスといった香辛料が加えられるようになり、高いところから注ぎ入れるのではなく、撹拌棒でかき混ぜることによって泡立てて作られるようになります。さらに、技術の進歩によりカカオ液を乾燥させ固形の製品にすることができるようになると、貯蔵や輸送に便利なものとしてさらに伝播が進んでいきました。

当時、チョコレートは食材というより医薬品として扱われていたこともあり、裕福な権力者のために手の込んだ方法で調合されたチョコレートは、宮廷や貴族の館、修道院を通じてヨーロッパじゅうに広まっていきます。

チョコレートは非常に脂肪分が多いため、飲む前に余分なカカオバターを取り除く必要があるのですが、19世紀になると、現代のチョコレートビジネスに繋がる革新的な発明が起こってきます。

1828年、日本ではバン・ホーテンでお馴染みの、オランダのファン・ハウテン(Van Houten)がチョコレート原液からカカオバターを抽出する油圧式の圧搾機を開発し、以前は原液におよそ53%も含まれていたカカオバターを27%程度にまで減らすことに成功します。さらに、ココアにアルカリ塩を加えて溶かしやすくし、風味を和らげるダッチング(オランダ方式)と呼ばれる製法を考案。
どろりとして泡立つ飲み物から、消化に良く簡単に作ることができるココアが誕生したことは、粉末と固形の両方の形でのチョコレートの安価な大量生産へと繋がっていきます。

1847年、イギリス人ジョセフ・フライ(Joseph Fry)が、ココアパウダーと砂糖をお湯に溶かして作るチョコレートに、お湯の代わりとしてココアバターを加えることで固形チョコレートを発明しました。

1875年には、スイス人のダニエル・ピーター(Daniel Peter)が粉ミルクとチョコレートを合わせることでミルクチョコレートを作り上げます。

さらに1879年には、同じくスイス人のロドルフ・リンツ(Rodolphe Lindt)がチョコレートの原液を温かい温度で混ぜ続けることによってコンチング(精錬)し、風味のあるなめらかで口どけのよいチョコレートの製造に成功します。

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一方、チョコレートに食べやすさと美味しさを添えてくれる砂糖ですが、主原料ともいえるサトウキビは南アジアか東南アジアが原産といわれ、サトウキビを栽培し甘い汁から長期保存が可能な砂糖を作り出したのは、約2500年前の東インドと考えられています。

ギリシア人やローマ人は早くから砂糖の存在を知っており、アレクサンドロス大王のインド侵攻(紀元前327年)時の記録には、インドのアシはミツバチの助けがなくてもハチミツをつくりだす。と伝えられています。

地中海沿岸には、ローマ時代からわずかながら砂糖がはいってきましたが、主に医療用として使われていました。

600年頃にはメソポタミアでサトウキビの栽培が始まり、次第に中東や地中海沿岸、エジプトなどへと栽培や製糖が伝わっていきますが、中世のヨーロッパでは黒死病の流行による人手不足、オスマントルコの台頭などから、東西の交易が分断。アジアからの砂糖や香辛料、その他の贅沢品を手に入れるための別ルートを探し始めるようになります。

14世紀以降、東大西洋の探索を始めていたポルトガルはマデイラ諸島やポルトサント島を植民地化し、砂糖プランテーションを建設し、砂糖の輸出を始めます。

大航海時代を迎えると、大西洋の島々や製糖業に精通し、自分が探検してきた島々でサトウキビ栽培ができるという確信を持っていたクリストファー・コロンブスは、第2回目の航海でスペインのカナリア諸島から持ち込んだサトウキビをカリブ海のイスパニョーラ島に移植。スペイン人によるサトウキビの栽培が始まります。
16世紀にはポルトガル人がブラジルで砂糖プランテーションをインディオを労働力として開始。ブラジル、西インド諸島などでアフリカからの黒人奴隷を労働力とする大プランテーションが作られるようになりましたが、最初にヨーロッパ向け砂糖の多くを生産したのはブラジルであり、今もなお世界一の生産量をあげています。

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カカオもサトウキビも大航海時代のコロンブスが関わっていたというのは驚きでした。
また、その有用性から奴隷を使用するプランテーションで栽培されるという同じような歴史を辿っています。
現在、チョコレートも砂糖も、共にフェアトレード製品に認証されているなど、まだまだ課題が残されています。

甘い美味しさに潜む苦いお話… いかがでしょう?


参考文献:

チョコレートの歴史物語
サラ・モス 著
アレクサンダー・バデノック 著

チョコレートの歴史
ソフィー・D・コウ / マイケル・D・コウ 著

砂糖の歴史
アンドルー・F・スミス 著

砂糖の社会史
マーク・アロンソン / マリナ・ブドース 著


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