小説「燕は戻ってこない」著・桐野夏生 読書感想文
現在、NHKでこの小説の連続ドラマが放送されていますが、なかなか観る機会が取れないので本で読みました。
主人公のリキは北海道出身の20代女性。
短大を卒業後、地元で就職するも介護職で給料が安く人間関係もうまくいかないため上京しますが、月給14万円の医療事務の派遣社員として働く日々。
ある日、病院で似たような暮らしをしている同僚から生殖医療ビジネスに誘われます。
同僚は途中で投げ出すものの、貧乏に疲れきったリキはある子供のいない裕福な夫婦の子どもを産む代理母になることを決めます。
さすが桐野夏生作品、時間を忘れるほどの面白さでした。
ただ、リキの貧乏の描き方に首を傾げるところがちらほら。
節約のために風呂に入るのは週2,3回であとはシャワーとあるのですが、お金がないのに風呂に入る回数が多くないか?とか。
お金に困っているのになぜ事務職なのだろう、若くて体力があるのに何で営業職に就かないの?など。
なぜ、こんなふうに思うかと申しますと、場所と時代は違えど私も田舎出身で地方の大したことない大学出で都会(大阪)で一人暮らしをした経験があるからです。
事務職の給料なら生活は厳しいでしょうが、営業職なら坊主を引いても基本給は高い。
リキとその友達が学歴が低く情報弱者ならわかるのですが、そういう設定ではなかったのでちょっと気になりました。桐野作品でこんな事を思うのは初めて。でも、調べたらそういう人が多かったということなのでしょうか。
それはさておき、この小説を読んでしみじみ思ったのは、多くの人間は環境を変え、お金を手に入れても「性分」というのはなかなか変えられないということ。
代理母となりお金を手に入れたリキは嫌で出ていった田舎に戻り、昔の仲間たちと変わらず実りのない話をし、昔の不倫相手とホテルに入ったり、東京に戻っても女性風俗を利用したりします。
そもそも依頼者(夫)からの上から目線の束縛メールがきっかけだったのですが、生き方を変えるための選択だったのにさらに後退してしまう始末。
リキだけではなく、リキを代理母として利用する裕福な夫妻もそれぞれに自分という人間をなかなか変えられず、何か特別なことが起きれば自分の人生はさらに豊かになると信じ行動する利己的な人々で、その様はすがすがしいほど。
やがてリキは短期間のうちに直接的、または人工的に受け入れた男たちのうちの誰かが父親である男女の双子を妊娠します。
それまでの流れでもそうだったのですが、そこからさらに無理矢理子供を作ったが故の罰がリキとその夫婦に訪れていきます。
私自身は子供はおらず、無理に欲しいとも思わないまま生きてきましたが、どうしても欲しい人は世の中にはいるわけで、お気楽な私は話題にするのも怖いところがあります。
ただ、この小説をいわゆる「少子化問題」「地元に女性が帰ってきてくれない問題」への警鐘として勝手に読むと、過去にある政治家が言ったように結局若い女性は今も昔も「子供を産む機械」として雑に扱われる存在なのだなと思わずにはいられませんでした。リキも裕福な夫婦に機械のように扱われるのが嫌だと言っていましたし。
そもそも日本は外国から何かをされないと変わることのない国でしたが、そうであってもかたくなに変わらないところはまだまだあって、といいますか、リキが大金を手に入れたにも関わらず昔いた嫌いな場所に戻ったり男を買ったりしたように、これから後退していくのではないかとどんどん貧しくなっていく日本の将来を遠い目で見てしまうのでした
https://subaru.shueisha.co.jp/books/2204_1/