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タバタ式トレーニングーその後:Apple WatchによるVO2Maxの推定
前回の記事で、タバタ式トレーニングを6週間、1年間継続した結果について書きました。Apple Watchで計測したVO2Max (最大酸素摂取量)がそれほど上がらなかった、と書きましたが、どうも正しく計測できていなかったのではないか、という疑問がありました。結論からするとおそらくそうで、ではどうすればApple WatchでVO2Maxが正しく推定できるか、という事について書きます。
タバタ式トレーニングとは
前回も書きましたが、簡単なおさらいです。
心拍数の上がる激しいトレーニングと休息を短期間に交互に繰り返す、というトレーニングです。具体的にはジムによくあるエアロバイクを使います。やり方は非常にシンプルです。
20秒間エアロバイクのギアを重くして思いっきり漕ぐ
10秒間ギアを軽くして休息する
これを1セットとして6回から7回繰り返す
6セットもしくは7セット終わった時点で、最大心拍数の90%になっているのが目安です。最大心拍数というのは、220-年齢で求められる心拍数のことで、例えば20歳なら200、30歳なら190です。これの90%なので、例えば30歳なら190 x 0.9 = 171回に心拍数がなっているのが目安となります。
タバタ式トレーニングは「心肺機能」を高めるためのトレーニングとして知られていて、心肺機能は最大酸素摂取量(VO2 Max)で測ります。最大酸素摂取量とは「吸入した空気から酸素を取り出し、細胞代謝によって消費できる最大酸素量」で、Apple Watchでも計測できます。
タバタ式トレーニング開始後のVO2Max記録
前回の記事では、タバタ式トレーニングを開始してから1年間のVO2Maxの記録をシェアしました。その時の記録によると、1年間で徐々にVO2Maxが下がる、という理解し難い結果になってしまいました。その原因の一つとして、Apple Watchがおかしい、という仮説を上げました。
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Apple WatchによるVO2Max計測値が下がった理由
では本当の原因はなんだったのか。それはApple Watchが正確にVO2Maxを推定できるような運動をしなかったからです。Apple Watchの説明書をきちんと読んでいませんでした。
A VO2 max value may be generated after walking, running, or hiking outdoors on relatively flat ground (that is, a grade of less than 5 percent incline or decline) with adequate GPS, heart rate signal quality, and exertion (an approximate increase of 30 percent of the range from resting heart rate to max).
VO2 Maxは、屋外の比較的平坦な地面(すなわち、5%未満の傾斜または下降の勾配)で、十分なGPS、心拍信号の質、および労力(安静時心拍数から最大値までの範囲の約30%の増加)を伴うウォーキング、ランニング、またはハイキングの後に生成することができる。
まず、VO2Maxは、Apple Watchでウォーキング、ランニング、またはハイキングをした時にしか計測されません。タバタ式をする際にインドアバイクの記録をしていたとしても、VO2 Maxは計測されません。
仮に歩いたとしても、心拍数が安静時心拍から30%は増加しないといけません。軽い散歩を少ししたぐらいではダメです。例えば安静時心拍が60だったら、78にならないといけません。
加えて、GPSが動作する平坦な道でないといけません。急な坂道ではダメです。GPSはビル街ではうまく働かないので、高い建物のない住宅街などが良いでしょう。これはおそらくどれぐらいの距離を歩いたのか、という情報が必要なのだと思います。
私の場合、ウォーキングをあまりしていなかった事、していたとしても坂道がある通勤路で週に1回ぐらい15分程度歩いただけだったので、正確な推定ができていなかった、というのが原因だったと思います。
なぜ計測の間違いと気付いたのか
2つの点から、VO2 Maxの推定に間違いがあったと気が付きました。間違いと言ってもApple Watchのせいではなくて、私がうまく使えていなかった、という間違いです。
運動していない時期にVO2 Maxの推定値が上がった
先日ふと思い立って、VO2 Maxの数値を確認してみました。するとなぜか7月8月で上がっていました。これはおかしいと思いました。なぜならこの時期は2ヶ月間家族でヨーロッパ旅行に行っており(その際の旅行記は別のブログに執筆中です)、タバタ式どころか運動自体をしていなかったからです。運動をしていないのに心肺機能が上がるわけがないので、Apple Watchの計測がうまくいっていなかったのだと疑いました。
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タバタ式をやっていない日にVO2 Maxの推定値が計測されていた
これはおかしいと思い、Apple Watchのヘルスケアアプリを確認しました。するとアプリ内でVO2 Maxの実際の計測値と計測した日付のデータを見つけました。
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日付がどうもおかしいなと思いました。タバタ式トレーニングはジムに行った時にしかできないのですが、ジムに行った日付とVO2 Maxが計測されたデータ日付が一致しないのです。それでタバタ式をやる時に登録するApple Watchのインドアバイクと、VO2 Maxの計測は別物なのだと気が付きました。
Apple WatchのVO2 Max計測方法
VO2 Maxを正確に測るためには、cardiopulmonary exercise test (CPET)というのを受けないといけません。これは呼吸器マスクをつけてランニングマシンなどで運動をし、摂取した酸素量、吐き出した二酸化炭素量などを計測します。
How Apple Watch estimates VO2Max to 1.2 ml/kg/min without a treadmill test
このような手の込んだテストを日々受けられるわけではないので、Apple Watchは心拍数とGPSなどを使って、VO2 Maxを推定しています。推定方法はかなり複雑で、論文にもなっています。
Modeling personalized heart rate response to exercise and environmental factors with wearables data
生理学的な関係を常微分方程式で表し、さらにConvolutional Neural Network (CNN)というディープラーニングの手法を使って推定しています。論文によるとVO2 Maxの推定誤差は5%だそうです。論文はちょっと、という方は、要点だけまとめた解説ブログもあります。
How Apple Watch uses deep learning to estimate Vo2Max
アップルのヘルプページにもちゃんとわかりやすく書かれていました。
これによると、屋外ウォーキング、屋外ランニング、ハイキングをした時にしか推定されない。 年齢、性別、体重、身長、心拍数に影響する可能性がある薬など、個人情報も考慮しているようです。より正確に計測したい人は、ヘルスケアアプリでこれらの情報を正確に入力しておいた方が良いようです。
まとめ
心肺機能を測るVO2 MaxをApple Watchで計測する場合、歩くか走るかハイキングしないと正しく計測できませんよ、という話でした。月に1度は平坦な道をウォーキングをして、VO2 Maxが正しく測れるように気をつけます。
参考資料
How Apple Watch estimates VO2Max to 1.2 ml/kg/min without a treadmill test
How Apple Watch uses deep learning to estimate Vo2Max
Using Apple Watch to estimate Cardio Fitness with VO2 max