ブラック企業戦士の宿命を背負った女
私は、ブラック企業戦士の宿命を背負って生まれてきたのかもしれない。
とんでもねえブラック企業に8年勤め、ホワイトな香りがただよう大企業の門戸を叩き、幸い入社を許されて1年とちょっと。
大好きな先輩から「それって10年スパンの組織大改革プロジェクトじゃないですか?」という仕事に誘われた。
人事採用事務営業経理管理関係すべてひっくるめてやるレベルのやつ。
私のコミュ力と底抜けの明るさでおじさん上司たちの嫌味を吹っ飛ばす姿を見ていて、ぜひチームに入ってほしいということらしい。
先輩は私の本当の顔を知らない。
この明るさは、一日6時間以上の睡眠と美味しいごはんとそれなりの給料が担保されている安定と無責任でいられる今の私の絶妙なポジションの上に成り立っているものであり、私の素質でもなければ、才能でもない。
前職で浴び続けた暴言と後輩の悲痛な叫びに比べたらおじさんの嫌味とか屁でもないだけなの。笑顔で吹っ飛ばしてるんじゃなくて、面白くて笑ってるだけなの。
これは、10年以上努力して自分のメンタルコントロールを何となくできるようになった32歳独身どメンヘラ女の仮の姿。
夜は小さなミスにくよくよ悩むし、無駄な責任感ばかりが膨らんで自責の念に駆られてはじめてのおつかいの動画見て泣くし、天災に見舞われた地方のニュースを見て辛くなってゲロ吐きそうになるし、怒鳴り続けるおじさん上司の声をかき消すために職場でNickelbackのAnimals爆音で聴いてる。
そんな一大プロジェクトに参加したら、またきっと頑張りすぎて辛くなる。
分かってはいるけれど、先輩が少し不安そうに、でも少しだけ楽しそうに、私に声をかけてきてくれたとき、私には、私たちの未来の姿が見えてしまった。
私と先輩は、プリキュアだった。絶対初代。
先輩はいつもダークグレーのスーツを着てる。キュアブラックです。ジャケットを持っていないという理由で白のシャツかブラウスばっかり着ている私は、キュアホワイト。この企業の闇を薙ぎ払い、魔法かレーザービームかなんだか分からない光でボスをやっつける。世界(会社)のみんなの笑顔を守るの。
惹かれてしまう私は、きっと途方もないバカなんだと思う。
でも。
少しだけ興味がある。
私を認めてもらえたこと。
メンヘラを克服しようと頑張って張り付けてきた笑顔が認められた気がして。今まで傷ついてきた私の顔がちゃんと隠せている気がして嬉しかった。
「なんにも悩まず考えず、休日においしいものたべて美味しいー!って言ってそう」な女の子になりたかったんだもの。「ある程度裕福な家庭に生まれ、親に愛され環境に恵まれ、お友達もたくさんいて、自分だけを愛してくれる理想的な恋人と平凡だけれど幸せな毎日を過ごしてそう」な女の子だと思われたかったんだもの。
そう見えていて、そういう私が買われたなら、挑戦したくなってしまう。
でも、自分が一番よくわかってる。それは私の仮の姿だって。
一度手を出したら絶対に引っ込められなくなる自分の本性も、ブラック企業勤めの8年間の中で嫌というほど思い知った。組織改革なんて、相性良すぎて悪すぎるじゃん。
でも。それでも。
キュアホワイトになった自分の笑顔なら、本物な気がするのよ。
決断はきっとまだ先で良い。でも。いつか来るその時に備えて自分の心に問いかけ続けよう。
私は本当にプリキュアになりたいの?
私に世界を救う覚悟はあるの?