2022年2月7日 小松庵銀座 森の時間|講師 株式会社ゴープレミア 小松圭子さん
小松庵総本家で使用しているオリーブオイルを輸入しているゴープレミア社の小松圭子さんからオリーブオイルのお話と試飲会をしていただきました。この回のテーマは、2022年の「新油」と呼ばれるその年一番最初に出荷されるオリーブオイルについてでした。
小松庵社長(以下、社長)
今日は、ゴープレミア社の小松圭子さんからオリーブオイルのお話です。これで、小松さんかオリーブオイルのお話を伺うのは4回目です。
今回はどんなお話になるのか楽しみです。
小松圭子さん(以下、小松さん)
前回の2021年の10月にご試食いただいたのは「ノヴェッロ」でした。収穫したてのオリーブをすぐに搾って、オリすら除かないままに新鮮さを味わうオリーブオイルです。
今回ご紹介するのは「新油」です。秋に収穫したオリーブオイルをフィルターに通してオリなどを取り除いて、ステンレスのタンクに寝かせたものです。オリを取り除くことで沈澱物が減って賞味期限も伸び、寝かせることでオリーブオイルの味がまろやかになります。
ノヴェッロはおいしいけれど劣化が早いので、開封したら2週間で使い切ってくださいとご案内しましたが、新油は賞味期限が長くて1年10か月から2年くらいです。
今日はイタリアの新油を持って来ました。
いまお付き合いしているイタリアのマルケ州とアブルッツォ州の生産者は、昨年の11月下旬に収穫を終えて、ステンレスタンクで寝かせている状態です。この新油は1月の下旬に到着しました。
2月はオリーブオイルの木の休眠中で、畑の雑草を取ったり、肥料や害虫の対策をしている時期です。3月頃に雨が降るといい花が咲くそうです。4月頃に新芽が芽吹いて、5月の中旬から6月に乳白色の花が咲いて風が吹くことにより受粉して、7月くらいから小さな実がついて、9月下旬からまた収穫が始まります。
イタリアのオリーブオイルは種類が豊富で、それぞれの州で味わいに特徴があります。オリーブオイルの調理に決まりはありませんので好きなように使えばいいのですが、その土地の歴史や気候を知ると、どんな料理と合わせるといいか思い付きやすいと思いますので、簡単に生産者の顔や歴史や気候を紹介します。
コンタディ社は、イタリアの中部のマルケ州にあります。オリーブの栽培は中世から始まってローマ帝国の時代に衰退して以降は長い間放置されていましたが、教会の修道士の人たちがもう一度復活させようと栽培を再開したのが今につながるオリーブオイルの栽培の始まりです。
マルケ州の都市ウルビーノは、世界的に有名な画家のラファエロが生まれた街で、15、16世紀の芸術の中心として知られています。今でも、街の中にはルネッサンス風の美しい建物が残っています。コンタディ社は、そのウルビーノの中のサン・ロレンツォ・イン・カンポ村にあります。ここは、ルネッサンスの名残のある歴史的な建物も多く残っているかわいらしい村です。コンタディ社のカルロスさんのご一家は1940年代からオリーブの栽培を続けています。オリーブ畑の向こうには、アドリア海が広がっているすてきな場所です。家族経営なので大量生産ができませんが、とてもすばらしいオイルを生産しています。
社長
小さい会社の方がいいものを作っているの?
小松さん
オリーブオイルは、一人の生産者が栽培から瓶詰めまでをやるといい品質のものができると言われています。だから家族経営のような小規模経営の方が、しっかりと栽培や管理を行えます。もちろん、搾油機を持っていない生産者もいますので、その場合には共同の搾油所で行います。
オリーブオイルは実を収穫してから、いかに短時間の間に実を搾るかでおいしさが決まります。搾油所が離れている場合は、実の上にシートをかけて
実の温度が上がらないように運搬の間の温度管理も大切になります。生産者によっては自分の敷地内に搾油所を持って、収穫したらすぐに搾油できるように設備を整えているところもあります。
イタリアのオリーブオイルは、レッチーノ種、フラントイオ種、モライオーロ種という代表品種が使われていることが多いです。それらは、栽培しやすいと言うこともあり、どこかでこの品種のオリーブオイルを口にされているかたもいらっしゃると思います。実が枝から落ちにくかったり、寒さに強かったり、他のオイルとブレンドするときにバランスがいいオイルです。
マルケ州でしか取れないラッジャ種という品種の含まれたオイルもあります。
マルケでよく食べられている料理は、ブイヤベースのような魚介のスープやウサギの肉などです。マルケ州アスコリ地方の郷土料理として有名な「アスコラーナ」は、オリーブの実の中に粗挽きの肉を詰めて、衣を付けて揚げたものです。
では次に、アブルッツォ州のオイル3種をご紹介します。
アブルッツォ州はマルケ州の南側にあり、同じくアドリア海に面している山と海の間の山岳地帯です。海から山までなだらかな斜面が続いていますが、これがオリーブの実を育てるのに最高の条件となります。
中世の初期にはキエーティという港から、ベネツィアからデンマークなどの海外にオリーブオイルを運搬していたと歴史書に残されています。早くから生産されていたということですね。
アブルッツォ州にはアペニン山脈があり、そこにコルノ・グランデという標高の高い山々が連なっています。その山脈につながるなだらかな急斜面というのが、オリーブの栽培に適していると言われています。海風が急斜面のオリーブ畑の木の全体を噴き上げるのにいい条件になります。風が花粉を飛ばして実を付けやすく、夏も暑くなりすぎない上に、夏と冬の気温の寒暖差があると引き締まったおいしい実をつけると言われています。
アブルッツォ州のオリーブオイル会社も家族経営です。
去年の秋に味わっていただいたノヴェッロは、ここの生産者のものです。
例年よりも早く実をつけて早く収穫できたので、空輸事情に巻き込まれずに済んで、無事に輸入できました。去年は南イタリアでは洪水が起きて、道路が陥没してトラックが動かず、でき上がったオリーブオイルを空港まで運べないということがありました。いつも気候との戦いです。
オリーブオイルには一つのオリーブの品種から作られるもの
「単一品種」と多種品種を混ぜ合わせた「ブレンド」のものがあります。
「単一品種」はシングルエステートとも言われ、個性的な味わいが多く、味わいのカテゴリーとしては「インテンソ」つまりストロングと言われるものが多いです。お肉にかけると肉の脂と調和され脂っこさが残らない後味になります。
「ブレンド」数種類の実を混ぜ合わせる事で、辛さや苦いみがまろやかになるものもあり「ミディアム」「ライト」と言う味わいのカテゴリ―に多くあります。味の複雑性がいくつもあるので、
かけやすく、合わせやすく、合わせる食材の幅が広がります。
味わいというのは、体調などその日の調子によって変わっていくので、同じものを食べても味が薄いと感じたり、濃いと感じたりします。その日の体調に合ったものを選べるように、味の濃淡があるオリーブオイルをいくつかを用意しておくといいかと思います。
和食には4つの味があるといわれています。
「はしり」「旬」「名残り」「ときなし」。
「はしり」というのは、初摘みですね。新芽のような新しいもの
「旬」は、季節のものです。「旬物」とも言われ味や栄養が豊富に含まれているもの。
「名残り」旬が終わる頃になると、熟れてきて甘味や旨味が濃くなる時期。
「ときなし」料理を生かす調味料のこと。この4つの味を基本にして、何と何を組み合わせて味付けするかを考えると言われています。
身近なもので言えば、鰹。
春や初夏の初鰹は、旨味がたっぷりで、脂は少なめで叩きにするとおいしいです。そういうときにはブレンドしているオリーブオイルが味を引き出してくれます。
一方で、秋口のカツオは脂が乗っていて刺身にするとおいしいので、薬味や濃いめの醤油と合います。オリーブオイルは、シングルエステートの個性的なストロングな味わいのオイル合わせると、青魚特有の臭みも抑えられるし、うま味を引き出します。
サンマは秋が旬です。夏頃に焼いて食べるとまだ脂の感じが物足りない。
脂分を感じる魚には、味の強いパンチのあるタイプのオイルをかけると合います。
理想を言えば、軽い味のオリーブオイルと、マイルドなもの、そして個性的なものの3種類くらいを食事に合わせて試してみるというのは、オリーブオイルを楽しむ方法の1つになります。
調味料として合わせるのにお勧めなのは「お酢」です。バルサミコビネガーと合わせると味が変化して楽しいです。
オリーブオイルを入れるのに、私が一番お勧めするのはお味噌汁です。
大豆の味わいはオリーブオイルと相性がいいのです。
オレイン酸が入ったオリーブオイルもしくは
αリノレイン酸を含む油(エゴマ・亜麻仁油等)を味噌汁を飲む前に少し入れるといいです
オリーブオイルと聞くと、洋食に合わせるイメージがあると思いますが、
和食とも合います。
とくに新油は、風味が高くて味わいがしっかりしているので、新鮮で旬なものと合わせるといいと思います。
味噌ドレッシングもおいしいです。
味噌とストロングのオイルを合わせてみたり、大根おろしと合わせてみたり、自分の体調や様子を見ながら手作りのドレッシングはおすすめです。
では、テイスティングしてみしょう。
最初はマルケ州のコンタルディ社のものから試してみましょう。
ちなみに、よく「オリーブオイルの新鮮さに緑や黄のような色は関係ありますか?」と聞かれますが関係ありません。大切なのは香りです。
今回は、酸味としてバルサミコビネガーを持って参りましたので、ご自由にお使いください。
このバルサミコは、小松庵で使っているオリーブオイルと同じメーカーのものです。熟成させたブドウでできたバルサミコとビネガーと合わせたもの。
酸っぱすぎず、自然な甘さがあります。
家で調理するときに甘味を加えたいときには、メープルシロップやみりん
等を使うと、味が深まり美味しさが増します。
オイルの試食用においしそうな帆立の刺身を出していただきました。
まずはオイルだけをテイスティングして、残ったオイルを帆立貝にかけていただくとおいしいと思います。このようにすると、刺身もカルパッチョ風に召し上がっていただけます。
水分が多めのみずみずしい野菜は、マイルドなオイルと合わせるといいでしょう。
2番目のオイルは「エリオクラシコエクストラバージンオリーブオイル」で、エビと合わせます。
こちらは、レッチーノ種、ドリッタ種、トルティリオーネ種の3種のブレンドです。
レッチーノ種はイタリアの中では有名な種類なので、耳にすることも多いかと思います。
ドリッタ種、トルティリオーネ種は、アブルッツォ州ならではの品種で個性的な味と香りです。それだけだとパンチが強いので、ポピュラーなレッチーノ種とブレンドしています。
3番目のオイルはイントッソ種です。
お肉も生で食べるか、炙るかという調理法だけでも味わいは変化します。お肉の脂はうま味でもありますので、パンチのある個性的なオイルと合わせるとおいしさが引き立ちます。とくに豚や牛の油は食べた時に脂っぽく感じますが、このようなストロング系のオイルをかけると不思議とさっぱり感じます。
酸味については、バルサミコビネガー以外で酸味を加えるとしたら、梅干しもいいと思います。梅干しの酸味とオリーブオイルは合いますので、梅ドレッシングは簡単に作れておいしくておすすめです。
今回の話は以上になります。
社長
小松さん、どうもありがとうございました。
オリーブオイルとバルサミコビネガーを合わせただけで、こんなにも味わいが変わることを体験できて楽しくなりました。いい勉強会になったかと思います。
どうもありがとうございました。