やうあ 〜パングラム、字母歌、新いろは歌〜
字母歌「やうあ」
やうあころくと
そらになき
よおほふかしり
たちつるを
ゐまへのわも
えいみせん
ゑひゆめすてさけ
むねはれぬ
〜〜〜〜〜
陽鴉ころくと
空に啼き
世覆ふ呪
断ちつるを
井前の我も
詠見せん
酔ひ夢捨て離け
胸晴れぬ
(訳)陽鴉がころくと空で啼いて世を覆う呪いを断ったので、井戸前の私も舞詠を見せよう。
――酔夢を捨て離して、心が晴れた。
〈用語解説+α〉
・陽鴉・・・太陽の中に棲んでいるとされる伝承上のカラスのこと。一般的には日烏、金烏、陽烏などと呼ばれます。太陽の異称として用いられることもあります。
足が三本あるのが特徴。三足烏。
(奇数である三は陰陽説☯において"陽"の数です)
今回描いたカラスのシルエットは趾も三本にしました。
・ころく・・・カラスの鳴き声。
カラスの名前の由来だと言われています。ころく→かろく→からく→からす。
「ス」は鳥を意味する接尾語だそうです。
「カラ」と鳴く「ス」。
「黒シ」→「からす」に訛った説もあり。
(他にも、気を"枯らす"、邪気を"枯らす"……なんて話もチラッと見かけました)
ちなみに万葉集には「ころく」と「児ろ来(あの子が来る)」を掛けたこんな歌があります↓
〈カラスという大変あわてものの鳥が本当はいらっしゃらない貴方のことを「来るよ」と鳴いて教えるものだから、私は少し期待をしたのだけれど、裏切られてしまい、とても口惜しい想いをしています〉
・呪・・・神などに祈って、福や災いについて願うこと。また、それをする人のこと。呪詛。呪い。
・井前・・・井戸の前。
「居前(点前のときに亭主が座る場所)」でも良かったのですが、それだと絵面的にわかりにくいですし、少々面白みに欠けますので、「井前」とすることで歌に"広がり"をもたせました。
・詠・・・詩歌の朗詠。舞人が舞いながら詩の朗詠をすること。
詩をつくること。またはその詩。
・酔ひ夢・・・文字通り、酔って眠っているときに見る夢。酔ったまま見る夢。酔夢。
いろは歌の「あさきゆめみしゑひもせす」的な要素を入れてみました。
歌の解釈
「空を舞い、啼き声によって世の呪いを断った陽鴉。その御業を見たとある舞人が『私もここらで(ハレの)舞詠を見せよう』と意気込んで、酔夢のような精神状態を捨てて心晴れやか」
というのが、訳に素直に沿ったイメージ。
「呪いに縛られて前後不覚になっていた人が、陽の気で浄化されて思わず舞いたくなった」……と取ることもできそうです。
なんとなく陰陽師系、呪術系ファンタジーの雰囲気が漂っています。
・暗号……?
うらふるもひむ……は「占ふるも秘む」 or 「占ふるも干む」でしょうか?
「占ふるも秘む」→占うけれども秘密にする。
「占ふるも干む」→占うけれども乾くだろう。(……井戸が? 田んぼが?)
晴れやかな歌かと思ったら、何やら不穏なメッセージ。
「占う」という言葉が陰陽師と関係ありそうてすが……いったい我々に何を伝えようとしているのか……。
謎は深まります……。
(※特に深い意味はありません)