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小説|時も

「切った爪がどこかへ消える時も、目覚ましが鳴らずに寝坊する時も、足の小指を物の角にぶつける時も、買ったばかりの服に醤油の染みがつく時も、ポケットに紙類を入れたまま洗濯機を回す時も、

 仕事で大きな失敗をする時も、泣く子をあやしているうち朝が来る時も、下げたくない頭を人に下げる時も、他人から心ないことばを吐かれる時も、このままでいいのかと自分に問いかける時も、

 誰も自分のことを分かってくれないと感じる時も、子どもの頃からの夢をあきらめそうになる時も、大切な人を失う時も、生きることに疲れる時も、消えてしまえば楽になれると涙する時も、

 健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」「誓います」






ショートショート No.212

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小牧幸助|文芸・暮らし
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