
【連載】家族会議『家事はやりたくない!父の本音と未来の介護編』
「親戚で一番幸せな家族になろうよ」のひと言から始まった家族会議エッセイ!録音記録をもとに連載で書き記しています。
前回の記事はこちら。
家族会議1日目#5|家事をやりたくない!父の本音と未来の介護編
父に根付く「家父長制」意識。当たり前に繰り出される上から目線に対抗しようとする母だが、一方の父は自分が上から目線でいることに気づいてはいない。
それどころか「家族に気をつかってストレスをためている」というのが父の主張だ。
母:お父さん最近は気をつかって過ごしてるって言ってたけど、その辺は上から目線と結びついてるのかな?全然違う形で気使ってるよみたいなことかな?
わたし:上から目線も結びついてんじゃない?あ、わたしが答えちゃった。
父:ん?なに?
話し始めてもう2時間近くになる。父はもう眠いらしい。
母:最近すごく気をつかって生活してるよって言ってたでしょ?
父:うん
母:気をつかってるって確か言ったよね。
父:気つかってるよ。
母:気つかってるっていう中のひとつに、上から目線じゃないようにしようとかって思ってるわけではないよね?
父:上から目線っていうのは意識してない。
母:どういうことを気をつけようとしてるってこと?
父:なんていうか、みんなと同じようになるっていうのを意識してるわ。
母:なにを?
父:何をったって今、家事しかねーじゃん。
母:あ、家事ね。みんなと同じようにやろうっていうのは、気つかってみんなと同じようにやろうっていうことね。
父:うん・・・。「家事しかねーじゃん」なんていうからダメなんだな。家事しかないでしょ?
母・わたし:あはは(笑)
母:気をつかってやってるから、ほんとはリラックスしてない…。気をつかわないの反対だったら家事は?あんまり、やりたく…ない?
父:家事やんなくていいんだったらやらない。
母:家事はやんなくていいんだったらやらない…。
わたし:そーなんだね!!?そっかぁ。
父:掃除もやらない。
わたし:うん。もう何にもせず、横になってテレビを見ていたいっていうのが一番の希望?お父さんの。
父:はっはっはっ(笑)ときどきちょっかい出してやるかな?
わたし:ふふふ(笑)そうしたいんだね。一番は。
父は初めて洗濯物を外に干すとき、周囲からの視線が気になっていたたまれない気持ちになったらしい。そんなことで?と思う。でもそれが家父長制の人の実情だ。下の者の仕事をやるということは罰ゲームかなにかか。
家事をしてくれない夫に家事を手伝ってもらいたければ、そうした心情を理解して、上手く操る必要があるのだろう。
わたし:まぁただね、これに関してはさ、生活していくうえで必要なことは、妥協しながらやんなきゃいけない。わたしやってないのに言うのもなんだけど。
母:見えないところでやってるよね。
わたし:例えばお母さんが先に死んじゃって、お父さんひとりになったら結局自分でやるしかない。わたしがいるかもしんないけど、子供がいないと考えたときには。今お母さんがいるからやってもらおうっていうのもひとつだけど・・・。
父:訓練か。
わたし:うん。ここは妥協してやんなきゃいけない部分はあるよね。と思う。お父さん、ほんとはやりたくないんだったらやんなくていいんじゃない?とはならないかな(笑)
母:ふふふ(笑)
父:やってますよ。
わたし:うんそうだね。やってるし、やっぱここ協力が必要な部分だよね。
父:了解。
母:泉はみえないところでやってるんだよ。お父さん。
わたし:昔はさ、おばあちゃんがおじいちゃんの周りの世話をしていたかもしれないけど。動けなかったっていうのもあるだろうし。
父の母親は、病気で臥せっていた夫の介護を長い間行ったらしい。父はそんな母親を尊敬していて、妻とはそういうものだと思っている。
ただし聞く話によれば、祖母は祖父を罵倒もしていたらしいのだけど…。父の中では『かいがいしく夫の世話をする妻』として美化されてしまっている。
わたし:でも動けなくなったらやってくれるから。お母さん。そのときはいくらなんでもね。
母:今のとこそれは言ってないんだけどね。
わたし:と、思うよってこと。なんだかんだ言うけど。
父:(なんだかんだ)言ってるから、もうすでに。
母:今のままの関係だったら、ちょっとできないなーって感じだな。
わたし:やってもらえるようにがんばってお父さん!
母:今のままだったら出来ないと思う、ほんとに。
わたし:できない?でもやると思う。文句言いながらすごくやると思う。
母:あぁ虐待しながら?
わたし:うん、それでもやる。それでもやるっていうのがお母さん。
母:虐待しながらでもね(笑)
わたし:うん。それが入院のときにお金請求したのに表れてるっていうかさ、前兆だよねこれ。介護の。
母:介護の前兆って?
わたし:タダではやらないみたいな。
前々回の記事でも書いたが、母は父が入院したとき世話代を請求した。日ごろの不満は、そういうときに爆発するものだ。父の家でも、祖父はよく怒鳴る人であって、病気で臥せるようになってから祖母は反撃にでたのだった。
母:だって気持ちがおおきいよね、介護するのには。体のきつさも大きいけど、気持ちが大きいでしょ。その気持ちがなかったら、ちょっともう、半分無いんだからできないでしょ。
父:ないって言ってんだから。
わたし:ふふ(困惑)
母:結局できないっていうか、やろうとして虐待したりとか、結局殺したりとか、そういうことになっていくのはやっぱ、どうしてもああいう事件はもう、その二人の関係がまずはおかしくてやってるから、なっちゃうと思うんだよね。
虐待の原因がすべて、夫婦仲の悪さとは限らないだろう。とはいえ、介護がしんどくなったとき、歯止めになるのは気持ちでしかないとも思う。
わたし:うん、うーん…。お父さんショックかもしれないけど…。
父:大丈夫。殺される前に死ぬから。
母・わたし:あはは(笑)
母:殺されても死なないからぐらい言って。
父:無理だな。
わたし:うーーーん(困惑)
母:ま、わたしは殺人者にはなりたくないからさ。
父:だから俺が死ぬっつってんのに。
売り言葉に買い言葉。この夫婦はこうして不毛な論争を繰り広げてきた。
わたし:殺人者になりたくないし、なんか、できることならお世話をしたいんだよね?
母:・・・
わたし:今は言えないと思うけど。うーん、だからさぁこう、恨みながら介護なんてしたくないし誰も。
母:そうだね。一番はそうだね。
わたし:なんだろ、死んだときに「あーせいせいした」なんて思いたくないんだよね。
母:うん、思わせないようにしてねって言いたいところだね。
父:俺が先に死ぬことばっかり言ってるけど?
わたし:ほんとそうだよ、その逆もあるかもしれないよ。
母:わかりました。覚悟しときます。
わたし:友達がさ、今「とにかく早く死んでほしい」って言ってて。おじちゃんに。「とにかく死んでほしい」って何回も何回も。この3日間で何回聞いたかなーっていうくらい。「死ねばいいのに」みたいな。すごいひたすら言ってて。
わたし:相当きてるなとは思ったけど。なんかほんと、「今。今だったらまだ泣ける」って言ってた。「これ以上生きてられたらせいせいしたとしか思えないと思う。死んだときに」みたいな。「今なら泣いてあげるから今死ねばいいのに」ってずっと言ってた。
わたし:それを聞いてそうはなりたくないなと思ったんだよね。
父:なるほどね。
わたし:そう。そうなりたくないんだよ。こっちも。お母さんも。
父:だから、そうならないために今これをやってんだよね。
わたし:そう!そうなの!!!
父の介護は現実味を帯びた問題だ。そのときをどんな気持ちで迎えるのかも、わが家にとっては深刻な課題である。悪性リンパ腫で入院や通院治療をしていたときの父には、わたしも心の中で舌打ちをしたものだった。
体重の思い父を車イスに乗せ、坂道をゼーハー言いながら押すわたしの存在に気づきもしない父。そのときのわたしはもう、家族としての情などなく、ただ理性を保っていただけのことだ。それが長く続けばどうなることやら…と正直思う。
- 今日はここまで -
介護問題で言えば、今は施設に入所するのが主流だ。そこに罪悪感をいだく必要はないのだと、『家族の負担』にも目が向けられるようになった。とはいえ、介護施設ではたびたび虐待が話題になる。
結局は「理性を保てなくなる」というのが現実なのだと思う。物理的な負担を減らすことはもちろん、そこに気持ちがなければ成立しない。
今母方の祖母が介護施設に入所しているが、ギリギリのところで保たれているような(保たれていないような)印象を受ける。
仕事だとしても割り切れない負担が、介護者にはのしかかってくるのだろう。
<家族会議1日目おわり>
家族会議の過去記事はマガジンにまとめています。
いいなと思ったら応援しよう!
