トラウマの癒し:身体に封印されていたもの (4)
トラウマの癒し:身体に封印されていたもの③の続きです。
身体から出て来た記憶を声に出して読んだ時、奇妙な感覚を持ちました。想像すらできていなかった記憶は、ワタシの胸に響きます。
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●声そして涙●
発表の順番が回ってきて、ワタシはまず「トラウマの癒し:身体に封印されていたもの①」で書いた、ワークで身体の記憶を感じていた時のことを手短に話した。それから、詩のような作品となって現れたワタシの身体に記されていた光景を読み始める。
普段は人前で話すことにあまり緊張しないワタシが、少しだけ震えた。読み始めるとすぐに無心になった。作品を読む自分の声が聞こえた。
読み上げていたのは本当にワタシだったのだろうか
その声を聞いていたのは誰だったのだろうか
そんな感覚が今でも残っている。
(後で録音したものですがよかったら聴いてください:日本語・英語)
読み終えて、皆さんの顔を見回した。まるで言葉を失ったかのように、大きく見開いた目が真っ直ぐにワタシに向けられていた。少しの間をおいてインストラクターさんが
「伝わってきた・・」
と言った。他の参加者さんも、引き続き真っ直ぐにワタシを見つめながら頷いた。
「ありがとう。よかった。」
そうワタシは応えて、自分の感想を添えた。
「Blank
Extending my arm to reach out for help in my heart
Searching for a hand that holds back my hand
But never find one
(空っぽ
助けを求めて心の中で腕を伸ばす
握り返してくれる手を探して
でも決してその手は見つからない)
この部分は、ワタシにとって想像することすらできていなかったこと。ようやくワタシはその手を握り返すことができるのかもしれない。知ることができてよかった。」
言いながらこみ上げてきたものが、胸から目に伝わって涙となった。
ヒジから記憶を読み取った参加者さんが
「私もそんな風に書きたい。前は書けていたの。何の問題もなかった。でも今は書けない。仕事で書いていることが、書きたいこととかけ離れているからかもしれない。考えてしまって説明文のようになってしまう。」
と話した時、インストラクターさんが言った。
「ヒジから物語を二つも読み取ったじゃない。まるでマジックのようにね。それに物語は二つとも素晴らしかった。」
ワタシや他の参加者さんも、その通りと言わんばかりに大きく頷いた。彼女の目から涙がこぼれた。
●参加したワークショップはライター向け●
そう、ワタシが参加したこのUnlocking stories from the body(身体から物語を解き放つ)というワークショップは、実はライターさん向けのワークショップ。癒しや、感情の解放を目的としたものではない。
だからインストラクターさんは、ライターであり、語り手であり、パフォーマンス・アーティストでもある方。参加者さんは、詩集を出版することを計画しているトルコの女性、学生向けに書く仕事をしているアメリカの女性、そして物語を生んで語る語り手であり、語りの場を作っている台湾の女性。ライターさん向けではあるけれど誰でも参加できたため、ワークショップの説明を読んで即座に参加を決めた。
説明には
「感覚を使いながら私たちの中に既にある世界を開いて、どんな風に物語を身体から解き放つかを探索するワークショップ。ライター向けの実践シリーズ。身体が何を伝えようとしているか、興味のある方は誰でも参加可。
身体の中にどんな物語があるのか?楽しい、辛い、不快な、愛おしいなどの記憶をどうやって解放するのか?どうやって知恵を解き放つのか?身体から何を知ることができるのか?」
とあった。
今後自分の経験について本格的に書きたいと思っていたこと、身体から表現したいと思っていたこと、自分の中にすでにあるものを書きたいと思っていたこと、それらとピタリと重なった。しかもここはイタリアであるにも関わらず、使用言語は英語。イタリア語がまだおぼつかないワタシにとっては、さらにうってつけだった。まるでワタシのために用意されたのではないかと思うほど、このワークショップを偶然見つけた時は心が踊った。
身体から書くこと、表現することを開拓したい、学びたいと思って参加したワークショップがきっかけとなって、ワタシの知らないワタシと出会うことなど思いも寄らなかった。
つづく・・・