本当は奥が深い「イルカの寓話」
いろいろな研修で使われている例え話しに、イルカの寓話というのがあります。
聞いたことがある方も多いと思います。
このイルカの寓話、イルカがジャンプしたときに餌を与えることで、イルカはジャンプを覚えていく、こんなふうに覚えている人も多いかもしれません。
しかし、イルカの寓話の本当の意味はそこではないのです。
はじめての方にもわかるようにご説明しますと、
文化人類学者であり、コミュニケーション理論学者のグレゴリーベイトソンはイルカのコミュニケーション・パターンについて研究してました。
そしてイルカに技を訓練させる様子から、イルカの学習を観察したのです。
では、イルカの訓練の具体的な内容を説明していきます。
今回はNLPの世界的権威の1人、ロバートデュルツ先生の本、NLPコーチングのイルカの寓話をまとめたものです。
①1回目のショー
イルカが何らかの特定の行動を取ったときに笛を吹きエサの魚をあげます。
イルカが再び同じ行動をとったときに笛を吹き魚を与えます。
そしてイルカが同じ行動をとったときに笛を吹き魚を与えます。
こうして、イルカはエサをもらう為にどうすればいいのかを学ぶ能力があること実証したという話しです。
②2回目のショー
イルカは先程と同じ行動をとりますが、トレーナーは魚をあげません。
イルカは3分の2の時間、先程の技を何度もくり返し、そのうちイライラしはじめて尾を振り始めました。
その瞬間、トレーナーは笛を吹き魚を与えました。
イルカは尾を振るとエサをもらえることを学んだのです。
③3回目のショー
イルカは先程と同じ行動をとりますが、トレーナーは魚をあげません。
イルカは3分の2の時間、先程の技を何度もくり返し、そのうちイライラしはじめて、今度は回転し始めました。
その瞬間、トレーナーは笛を吹き魚を与えました。
イルカは回転するとエサをもらえることを学んだのです。
④ショーを14、5回続けました。
このまま続けていると、イルカはストレスが溜まり出しました。
そこで不労の魚も与えることにしていきます。
『不労の魚』がないとイルカは非協力的になるため、イルカとの良い関係を保つためにも不労の魚を与えながら進めることにしていきました。
⑤そしてあることが起こりました。
イルカたちは、突然おかしくなってしまったかのように興奮しだしました。まるで金脈を見つけたかのように。
そしてイルカは"今までのイルカにない行動もやりはじめた”のです。
まとめると
①イルカが技を覚える様子を観客に見せていた。
②トレーナーは新しい技の覚え方を観客に見せていた。
③トレーナーは「不労の魚」で関係を大切にした
④イルカは興奮し今までにない行動もやりはじめた。
こんな感じです。
イルカの寓話の疑問点
ところが、ここで学習過程において、ある疑問が生まれました。
イルカとトレーナーの関係を見直してみます。
・イルカは特別な行動をするとエサをもらえることを学習する。だけど、イルカは特別な行動とは何か(正解の行動)を知らない。
・イルカをコントロールしているのはトレーナーであって、トレーナーが常にイルカの行動を評価し、行動に対してエサを与えている。
この視点だけで見ていくと
イルカはトレーナーからエサを貰うために行動しているだけで、エサをくれるトレーナーに依存していってしまう恐れがあります。
そしてトレーナーも、意図的にイルカを依存させることができてしまい、離れられない関係を続けさせていくこともできてしまうおそれが出てきます。
もし、そうなってしまったらイルカはトレーナーがいなくなったら行動することができなくなるかもしれません。
またトレーナーはイルカに対し、『行動とエサ』を関連づけてしまえば、イルカは無意識にトレーナーに従順になり、エサをもらうためにずっとトレーナーの言うことに従うようになるでしょう。
ここが疑問だったのです。
これが本当に学習の在り方なのかなと思いました。
イルカの寓話の先にあるもの
イルカの寓話にはもっと大切なポイントがあるかもしれないと、もう一度、読み直してみました。
すると
・グレゴリーベイトソンはイルカのコミュニケーションのパターンを研究していた。
・イルカがどのように学習するかを見ていた。
つまり、イルカとトレーナーとのやり取りの中で
『何が起こっているか』
を観察して、イルカの学習方法を紐解いてたわけです。
ここでは主体はイルカの変化であって、イルカの中に内部表象のようなものがあるならば、それがトレーナーとの間のコミュニケーションでどのように変化していくかを観察することが重要なのかもしれません。
そして、イルカの寓話から、疑問を払拭する2つの大切なことがわかりました。
一つ目の大切なこと
一つは、成長に大切なことは『不労の魚』も必要だと言うこと、イルカはできたことへの魚だけでは、ストレスが溜まっていったのです。
何もない時にも魚を与えるようにするとストレスは軽減したのか、イルカが協力的になったと書いてありました。
ここから読みとくなら、トレーナーはできたか、できないかだけで評価するのではなく、イルカの存在そのものも尊重して関係を築いていくことが大切だと考えることができます。
そして、もう一つ大切なこと
14〜15回目のショーの
"イルカたちは、突然おかしくなってしまったかのように興奮し、まるで金脈を見つけたかのようだった。そしてイルカは今までのイルカにない行動もやりはじめた”のです。
と書かれてます。
この部分には行動の後のエサをあげる流れが書いていませんでした。つまりイルカの変化だけに着目しているのです。
イルカは今までのショーとは違う、何か大きな気づきがおきたと考えることもできるのです。
ロバート・デュルツ先生は、この寓話についてコーチングと学びに関する大切な原則をいくつか挙げていて、その中でこのように書いてました。
「効果的なパフォーマンスの一環として、
『学ぶことを学ぶ』ことの関連性とその難しさ。」
とても興味深い文章です。
教わる側に対して『学ぶことを学ぶ』ことを、関連づけていることが効果的なパフォーマンスの一環だと言っているのです。
ということはコーチやトレーナーの在り方として
『学ぶことを学ばせる』
ここも意図していることがより良い学習効果を生み出すのかもしれません。
この2つの大切なこと
『不労の魚』
『学ぶことを学ぶ』
この考えは、学習にとってもっとも大切なことを教えてくれました。
もちろん『正しいやり方』を教えて、できたときに魚を与える。これもやり方の一つだと思います。
ですが、イルカの寓話でトレーナーがイルカに対して行っていたのは『正しいやり方』を教えるのではなく、安心、安全の場の提供し、イルカが好奇心と想像力を持ってチャレンジができるように促していたということが書かれていました。
この結果、イルカは学ぶことを学んだ。それが15回目のショーの時のイルカの興奮だったのかもしれません。
講師やコーチのお手本にもなりやすいイルカの寓話は、読み方によって、いろいろな意味で奥が深く、学習とは何か、教えることとは何かの本質をあらためて教えてくれた気がしました。