感想『アダルト・チルドレン:自己責任の罠を抜けだし、私の人生を取り戻す』
信田さよ子 2021 学芸みらい社
私が臨床心理学の勉強を始めた頃には、既に「アダルト・チルドレン」という言葉は人口に膾炙していた。
それどころか、エゴグラムの中のAC(Adapted Child)と混同する学生もいたぐらいである。
もとの本が出された1996年、阪神淡路大震災と並んで、アダルト・チルドレンという言葉が、カウンセリングという心のケアというものがあることを世の中に広めていったのではないだろうか。
阪神淡路大震災や東日本大震災といった、大きな災害がもたらすトラウマもあるが、この本が光を当てたのは、家族の中でひっそりと傷つけられてきた人たちのトラウマである。
それは、DVだったり、虐待だったりと名前を得て、今は暴力として認知されつつある。
そのような傷つきに著者が取り組むようになったのは、アルコール依存症に代表される嗜癖問題を通じてである。
この本はアダルト・チルドレンという言葉を切り口に、とても多面的で立体的に家族の抱えてきた問題を示し、回復への糸口と経路を示唆する。
アダルト・チルドレンというのは自己認知であり、「現在の自分の生きづらさが、親との関係に起因すると認めた人」(p.207)である。
自分がそうであると気づき、認めるところから、個人内の悪循環や世代間連鎖を断ち切り、回復していくことができる。
その希望は、この本が書かれた25年前から変わらずに、現在も読み手の心を照らすだろう。
日本における(そして世界における)アルコール依存症を中心とする嗜癖の問題への考え方や支援の変遷を書かれている。本書のもとの本が書かれた頃から積み重ねられてきた知見も多い。
また、10章に著者がコロナ禍の体験を書き足していることも、今後、10年後や20年後に意味をもたらすだろう。
共依存の定義の見直しのところだけをとっても、私は寡聞にも知らなかったので、改めて自己責任という言葉で被害者に責任を求めないように言葉の選び方から注意すべきだと反省した。
そして、親子関係で生じるトラウマの治療について、「トラウマを癒せばすべて解決すると思い込みがち」(p.100)なお手軽な発想に陥らないようにも戒めてくれる本であった。
同業者と小さな読書会を開いたりもしたが、私もまた、この本を付箋だらけにした。
どこもかしこも、心理職の大先輩からの誇り高くあたたかく力強い言葉に満ち溢れている。
働く場所も違うし、出会う人たちも違うのであるが、この本は一つの羅針盤のように、机に置いておきたいと思った。
同業の人たちに限らず、夫婦関係に悩む人、親子関係に悩む人、自分はなぜかいつも苦しくてたまらないと感じている人、さまざまな人たちに手に取ってもらいたい本だ。
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心理学に関わる本を読んだ時に、感想を書いていこうと思います。
書影を載せるほうがいいのかなぁ?と思いましたが、ダラズさんの素敵なイラストをお借りしました。
この猫さん、友情についてのお勉強中なんだそうです。
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