のび太の恋 (Sad pure love) 3日目
【登場人物】
功二(こうじ) :主人公。子供の時のあだ名は「のび太」。
優希菜(ゆきな): 憧れの女性。クラスのマドンナ。
3日目(土曜日)
「あなたの成績では、この高校に合格することは無理ですよ」
「功二、先生の言われる通りにしなさい」
「嫌です。 どうしてもこの高校に行きたいのです」
「でも、この成績では難しいよ」
「これから、がんばります。 成績を上げます」
「私は責任をもてないですよ。 お母さん」
「功二」
ハッ!として、僕は飛び起きた。
夢だった。 夢に出てきたのは、中学3年生のときの『3者進路相談』の場面。
初めて、僕は親や先生に逆らった。
それまでおとなしい性格の僕が、これほど強く自己主張をすることに、親も先生も戸惑っていた。
僕は、どうしても優希菜さんと同じ高校へ行きたかった。
ただ、それだけは口を避けても言えない。
クラス一番の優等生と、落ちこぼれの僕。
それからの僕には、TVもゲームも漫画も入らなかった。
そして初めて僕は努力すれば達成できることを知った。
すべて優希菜さんが居てくれたからこそ・・・僕は成長できた。
昨日は、優希菜さんと初めてゆっくりと話しが出来た。 でも、僕の思いは半分も伝えられない。 結果は、優希菜さんを惑わせただけだった。
だけど、今朝見た夢は、きっとあの時の様に僕を奮い立たせようとしてくれたのだと思う。 10年も待ったのだ。 だから諦めるなと、もう1人の自分が叫んでくれている。
今日は土曜日だけれど、午後から講義が有る。 優希菜さんもサークルがあるだろうから、
きっと学校に来ている。 なぜか僕にはこの時、彼女と会えるという自信があった。
そこで僕は口下手な自分に反省をし、自分の思いを手紙に託すことにした。
大学に着くと、僕は彼女がいる2年生のカリキュラムを確認しに行った。 すると探すこともなく、すぐに彼女を見つけた。 僕の運命が微笑んでくれているように感じる。
「こんにちは、優希菜さん」 もう一度、勇気を振り絞って声を掛ける。
彼女は僕の方を見つめる。 でも、何も話をしてはくれない。 彼女の目が動揺をしているのが解る。 彼女は、自分が受けているクラスにまで会いに来られたことに、不快感を感じているのだろう。
何故か、今日は、僕は落ち着いている。この気の弱い僕が余裕を持っている。 彼女は僕の変化に気付いてくれているだろうか?
「手紙を書きました」
手短な言葉だが、僕の目が真剣だと言うことは、彼女は解ってくれている。 僕は彼女に白い封筒に入れた手紙を渡す。 決しておしゃれな封筒ではないが・・・ 周りの何人かが、こちらを見てにやけている。 それでも気にはならない。
「僕は口下手なので、僕の気持ちを書きました」
「・・・」
彼女は何も声を発しない。 怒っているのだろうか? やっぱり迷惑?
僕の心の中の余裕が、少しずつ崩れていく。 それでも僕はとっさに驚く行動に出ることが出来た。 僕は無意識に手紙をもつ彼女の手を、重なるように握り締めていた。
「今夜、必ず読んでください。 お願いいたします」
「ありがとう」 それだけ言うと、彼女の方が走り去って言った。
僕の手に残る彼女の暖かい感触が、また僕に自信をつけてくれた。
「ありがとう」
彼女から聞いた初めての感謝の言葉。
ふと、小学校の時、音楽の時間に借りた縦笛を返す時、「ありがとう」と言えなかった自分を思い出した。
あの時、10歳の僕にもう少しの勇気があれば、どれだけ人生が変わっていたのだろうか?
「ありがとう」の5文字を、彼女に伝えきれていたら・・・
もしかしたら、今の僕はなかったのかもしれない。
あの時、彼女にお礼を言えなかったからこそ、僕は努力し成長できたのだから。
そして、僕は彼女が走り去った廊下を見つめて、今夜、手紙を読んでくれることを祈った。
(4日目に続く)