2023ノーベル生理学・医学賞:カリコ氏の業績を支えた信念
ノーベル生理学・医学賞が発表されました。(タイトル画像Credit:ビオンテック社)
個人的には前評判通りです。カリコ氏は日本国際賞も過去に受賞しており、その時に紹介した記事を引用しておきます。
おそらく業績内容は上記や他のメディアにわんさか載っていると思うので、そこはさらっと説明し、むしろカリコ氏の人生についても紹介したいと思います。
まず、業績についてですが一言でいうと
「mRNAワクチン開発への貢献」
です。この数年間でその貢献は計り知れないものです。
上記の過去記事でも簡単に解説してますが、m(メッセンジャー)RNAとは我々含む全生命のタンパク質を作る媒介です。
名前の通り、タンパク質工場(リボソーム)へレシピを届ける役割です。
このレシピを人工的に制御することで必要な「薬(タンパク質)」が作れるのではないか?というのが大元の発想です。
この発想自体はカリコ氏以前からあり、何人もチャレンジしたのですが、mRNAを薬に使うと我々の体内では害のあるものと解釈されて炎症を引き起こしてしまいます。
それが最大の壁でしたが、カリコ氏は兄弟にあたるt(トランスファー)RNAはなぜか炎症が起きない(害悪でないと体内で判断)ことに気づき、その原因を遺伝子レベルで突き止めることに成功します。
つまり、mRNAに炎症を引き起こさない改造(とある物質を付加)を施すことに成功します。
もう1つmRNAはあまりにももろすぎるという弱点がありましたが、それも膜で覆う改造に成功し、薬としての実用性に道を開きました。
ざっくりいうと、この研究成果が今回の受賞内容です。
個人的に知ってほしいのが、カリコ氏の信念です。
カリコ氏はハンガリーで生まれ育ちアメリカに移住しています。お世辞にもその研究人生は順風満帆とは言えませんでした。
まず、学術的には上記のとおり、当時mRNAはダメだろうという空気があり、研究者の数もそれを支える研究費の獲得も厳しいものでした。
研究テーマだけでなく、国の経済的・政治的背景も影響しています。
ハンガリーは(ソ連崩壊の1989年まで)社会主義体制下が続き、カリコ氏もスパイ容疑で研究を阻害されたこともあります。(ちなみに本人もスパイとして登録したことは認めているが、当時の空気上やむをえないもので、実際の活動は行っていないと明言。詳細は参考リソース参照)
ハンガリー含めた当時のソ連による東欧諸国への支配は、なかなか想像しえないほど過酷だったようです。
そんな時代背景でアメリカに移住しますが、その後も苦難は続きます。
ペンシルベニア大学でmRNAの研究リーダーとして活動していましたが、成果が芳しくなく研究リーダーを降ろされます。
1995年のころです。ただ、その2年後に今回ノーベル賞共同受賞となったワイズマン氏と運命的な出会いをします。
どうも研究室のコピー機の待合で会話がはじまったそうで、ワイズマンがHIVワクチン開発にDNAを使う研究がうまくいかないところに、自身の専門であるmRNAを持ち込みます。漫画のようなシナリオですね。
ここから二人三脚で今回の成果に結実し、それを金銭面で大きく支えることになったのがビオンテック社です。
つまり今回の研究成果は、この数年に起こったパンデミックが原因でなく、その40年前から続くカリコ氏の信念がたまたま今回実ったものともいえるでしょう。
カリコ氏の研究人生は、科学者だけではなく人としての生き方を強く訴える何かがあります。
またどこかでもう少し掘り下げてみたいと思いますが、まずはお二方に心からの祝福を送ります。
<参考リソース>