インフレーションの仕組みと大きな謎
前回、量子重力理論の候補の1つ「ループ量子重力理論」の補足で、
時間とは、宇宙創成で生じた低エントロピーから増大則で感じられるもの、という表現をしました。(「時間」という解釈次第なので、これ以上その実存性については触れません)
で、この「創成時の低エントロピー」ですが、今の物理学では初期に生じた加速膨張、通称「インフレーション」によって引き起こされた説が有望であり、過去にも少し触れました。
当時は真空から負のエントロピーが誕生した、と丸めましたが、今回はもう少しそこの機構と新たな謎について深堀したいと思います。
まず、そもそも何もないはずの「真空」から生じた、というのがひっかかると思います。
ここでの「真空」とは、物理学(特に素粒子を量子化した場の理論)での定義です。いったん頭を空っぽにして、そういうものだ、と受け止めたほうが楽です。(厳格にはそれよりも細かい定義が幾パターンありますが、個人的にはもはや楽しめない領域・・・^^;)
その定義では、素粒子自体は時空間にぎっしり詰まっており、最低エネルギー状態を保っています。
ただ、学校での朝礼のように各生徒がおとなしく静止しているわけでなく、量子論に従って波のようにゆらゆらと揺らぎ、その正負が打ち消しあって結果として最低エネルギーを保っているというわけです。
その真空を構成する素粒子を「インフラトン」と呼び、このエネルギーの揺らぎが、負のエントロピーをもたらす「インフレーション」の種とされています。
念のためですが、ここで言っている「揺らぎ」とは、量子論の原理によるものです。
その加速膨張を行うインフレーションにも、揺らぎ方による発生モデルがいくつか提唱されています。
例えば、前回投稿でも引用しましたが、スティーブン・ホーキング氏も最後までこのモデルを追求しており、そこでは「永久インフレーション」説を唱えています。
では、その複数提唱されているモデルの確からしさをどう判断するかというと、「宇宙マイクロ波背景輻射(CMB)の観測」が期待されています。
1つだけその観測で期待されている計画を紹介しておきます。
インフレーション発生時には、時空の歪みによって「重力波」も生じていたことも分かっており、CMBにもその痕跡が残っていると期待されています。
通常の重力波と区別するために、それを「原始重力波」と呼び、日本の研究グループが、検知するための観測計画「LiteBIRD」を進めています。
現時点では2020年代後半打ち上げ予定なので、なんとか生きている間にインフレーションの痕跡が初めて検証され、その発生モデルも絞りこまれるかもしれません。
そしてそれが、元々一連の話題のきっかけとなった究極理論「量子重力理論」への発展にも貢献する可能性もあります。
という明るい兆しもあるので、今からそれを楽しみに待ちたいと思います。
最後に、インフレーションと似ている「大いなる謎」を提示しておきます。
インフレーションという加速膨張後に、ビッグバンと呼ばれる「減速膨張期」にシフトするわけです。
が、20世紀末の観測結果で、とんでもないことが分かります。
なんと、宇宙が約66億年前に、減速膨張から「加速膨張」にまた戻っていることが分かりました。
言い方によっては、第二次インフレーションが起きた、という見方もできます。(加速膨張という現象をインフレーションの定義とした場合)
これは、今でも未解決の謎で、その宇宙全体で発生している斥力を「ダークエネルギー」と呼んでいます。
念のため、よく宇宙論の歴史で取り上げられるネタを添えておきます。
これは、アインシュタインが宇宙を安定させたいために苦肉の策で導入して後に(膨張が観測されて)取り下げた「宇宙項」の復活を意味します。
さて、このダークエネルギーですが、観測に基づいてエネルギー密度を計算すると、実に宇宙全体の7割弱を占めています。とんでもない謎であることが感じられたでしょうか?
先ほど触れたビッグバン直前のインフレーションとこのダークエネルギーは、性質は似ています。
ただ、宇宙初期(138億年前)と66億年前とでは宇宙の状態が大分違いますので、全く同じメカニズムかどうかは分かりません。
いずれにしても、宇宙にはまだまだ大いなる謎があることを少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
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