幻覚の科学ばなし2
前回の続きです。
先達のおかげで、幻覚作用を科学的に研究すること下地が徐々に整ってきました。
その科学的進展に貢献したのは、カーハート・ハリスという科学者です。
ハリスは2009年ごろから、最新の脳計測機器を活用することで、自身の仮説を綿密に検証するという実験とその興味深い発表を行っています。(スポンサー獲得も背景)
ハリスは当初、幻覚作用物質(この実験ではLSDでなくサイロシビン、通称マジックマッシュルーム)を摂取すると、脳の感情に影響を与える部位で活動が活発になる、と予想しました。
結果は予想と異なり、むしろ該当部の血流量が減少する、という奇妙な現象が確認されます。
実は脳科学では21世紀初頭に、DMN(デフォルトモード・ネットワーク)と呼ばれる、「ぼんやり状態」という存在が確認されていました。
1つだけ説明サイトを引用しておきますが、何も活動していないわけではなく、逆に広範囲にわたって微弱ながら神経細胞が活動を行っている状態です。
幻覚物質を投与すると、このDMNという状態が変化することが判明します。
たとえるなら、生徒たち皆がささやく程度に雑談していた状態で、先生(?)が指示をして一部は黙り、一部は歌いだすイメージです。
当時のハリスの実験では、大脳周縁系を含むいくつかの箇所が活発になりました。
これは幻覚作用だけでなく、感覚器官からの刺激によっては同じように特定の部位を活発化します。ざっくりいえば、それが外からなのか内に秘めた箇所が中心なのかの違いです。
その後もハリスはfMRIを駆使して様々な仮説を提唱します。
いくつか紹介します。
幼少期のころの脳の状態に似ている、というのは興味深いです。筆者は大人になって夢を見なくなったのですが、夢も自然な幻覚作用と仮定すると、しっくりきます。
ハリスは同じような実験を繰り返し、なかには「幻覚作用物質は肥満に効く」という仮説も提唱しています。
幻覚剤の歴史にも触れている記事を1つ紹介します。
ようは、
幻覚剤が潜在的に中毒性のある物質への依存をなくす作用もあるなら、健康的ではない食生活を変えるのに役立つ可能性があると論じるものだ、
という話です。
なかなかすぐに首を縦に振りにくい論法ですが、ハリス自身は肥満だけでなく、うつ病の治療に貢献できる、と主張しています。
上記記事の巻末にあるように、(ハリス自身は客観性を重んじてはいますが)やや怪しい論文も増えてきたようです。
なかなか日常的には縁遠い話ですが、うつ病は日本でも社会課題として今後も増加することが予想されます。
もし本当に副作用がなく効果があるなら、ぜひ健全なプロセスでうつ病患者を救ってほしいと願います。研究自体が幻想にならないように。
<参考リソース>
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