もの作りの覚悟と挑戦。映画『ルックバック』の感想と考察
昨日、話題の映画『ルックバック』を観てきました。
原作は以前職場の仲間に薦められて読んだことがあったのですが、どんな内容だったか忘れてしまっていました。ただ、絵を描く少女たちの物語だったことはうっすら覚えていたので、新鮮な気持ちで映画を楽しむことができました。観終わったあとに原作を購入し、再度読み返しました。
1.共感と自己投影
自分も絵を描く側の人間なので、映画には共感しかありませんでした。
もの作りの覚悟とハードさというものを深く感じました。鑑賞中は藤野に共感しながら観ていたのですが、自分の過去を振り返ると、冒険できない、リスクが取れない、行動力のない京本だったかもしれません。同時に自分も小さな挫折を繰り返してきました。
お恥ずかしながら、自分の話をさせていただくと、私も漫画を描き、よく絵が上手いと言われた小学生でした。中学に入り、他の小学校の絵に自信がある子よりも圧倒的に絵は上手かったです。そのためか、その絵に自信があった子は絵を描くことを止め、のちにゲームのプログラマーになりました。私は高校卒業後、多摩美術大学に入ったので、人生の途中まではどちらかと言えば、京本だったのかもしれません。
ただし、美大の中ではズバ抜けて絵が上手かったわけではなく、就職先のゲーム会社SNKでは1年先輩にヒロアキさんという天才デザイナーがおり、自分の画力ではこの人に勝てないと悟り、5年後に管理職になろうと決めました。
だから、絵が上手いともてはやされたこともあるし、挫折の経験もあります。
また、この映画の中で描かれるクリエイターの過酷な環境に対する覚悟のようなものは自分にはありませんでした。子供の頃の夢は漫画家でしたが、それに本気で挑戦することなく、今があります(1回だけ出版社に持ち込みの経験はありますが)。
(追記)
あ、そう言えば、私も多摩美の絵画科だったので、京本のようにツナギを着て100号のキャンバスに油絵を描いていましたよ。懐かしい話。
2.テーマ「背中を見て」の意味
タイトルからもわかるように、「look back=振り返る」という意味があります。
OP、EDでは藤野の背中が描かれており、その背中を追いかける京本が印象的です。4コマ漫画のオチ「背中を見て」の意味も深いものがあります。この映画のテーマである「背中」には、時には漫画を作る喜び、二人で描く喜び、そして孤独や悲しみが表現されていると思います。
(追記)
また、藤野は京本の背中を見て画力を上げ、京本は藤野の才能に憧れ、その背中を追いかけ、お互いに成長し合います。人はひとりでは生きていけず、人と出会うことで成長する、そんな姿も描かれていると思います。
話は逸れますが、漫画『キン肉マン』の作者であるゆでたまごのお二人は、小学生の時に出会い、その影響で漫画を描き始めました。そして、高校生でデビューし、60歳を超えた現在でも連載が続いています。
そんなわけで、人との出会いは本当に大切で、人生にとんでもない影響を与えるものだと言えます。つくづく。
3.日本の漫画出版のシステム
本来の今作のテーマとは異なりますが、日本の漫画システムの優秀さと過酷さを感じました。
海外のアメコミ文化とは違い、日本の漫画は基本的に作者のもので、作者がお休みすれば漫画も休載します。一方で、海外では他の作家が物語を引き続けることが多いです(日本にも例外的にドラゴンボール超などもありますが)。
そのため、日本には作者の数だけ漫画があり、多種多様な漫画・アニメが溢れています。これは、海外のマーベルやDC、そして中国などが真似できない独自の文化だと感じます。それは、優秀で誇らしい文化であると同時に、作家たちの命を削る過酷なシステムだとも感じます。
まとめ
映画『ルックバック』を通じて、もの作りの世界の厳しさと美しさを学びました。読者の皆さんもぜひこの映画を観て、自分なりの感想をコメントで教えてください。
それでは、また。