カンバン

《第10回SCCしずおかコピー大賞 独りごと反省会。》 vol.4

課題1 「静岡企業の東京進出を後押しするコピー」
・ふるさとのある企業は、強い。

「ふるさと」は、「故郷」や「古里」などの漢字でも表される。「誰にでもありそうで、実はない人がいる」というインサイトを日本人は持っている。

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では、ふるさとがない人は誰? まず思いつくのは、東京の人だ。この東京の人、東京生まれ東京育ちの方だけでなく、東京以外で生まれて乳幼児のうちに東京暮らしとなった人も含まれると思う。つまり、東京以外での生活実績と記憶を持っていない人を指している。

東京生まれ東京育ちでも、「ふるさと」は東京でいいんじゃないか? という疑問も湧いてくる。しかし、それを「ふるさと」として語られることは少ない。これは多分、漢字の読み方からくる刷り込みだと思う。

ふるさとを「故郷」「古里」と書いたとき、漢字が持つ意味や視覚効果から、どうしても田舎が連想させられる。田舎といえば、地方都市。都市といっても、どちらかといえば山や海に近い田園風景や郊外の町村が思い浮かぶ。そう、このコピーのキーワード「ふるさと」が指すのは、静岡県各地域ということになる。

しずおかコピー大賞は、エリアを静岡県と限定している。そして、応募に参加できる人たちにも、静岡県に住んでいるか通っているかという規定を設けている。まさに地元向けのコピーコンテストなのだ。そのなかで「ふるさと」と例えれば、応募する人もコピーの受け手も地元のことを思い浮かべる構図になる。さらに、前述の東京以外という刷り込みにも後押しされるのだから、より強い暗示を持つことができる。

『ふるさとのある企業は、』この部分までで『静岡企業の東京進出』を意識させることに成功しているように見える。だからこそ、問題となるのは『強い』だ。

あなたたちは「強い」。だから、大丈夫。
確かに、強いコトバで挑戦を応援する気持ちは現れている。だが、裏付けによる確信がない。SWOT分析で例えるなら、「ふるさと」のある企業が集まる東京で競合も同じ強み(strength)を持っているとしたら、強いとは言い切れない。これは実態を知らない人が、安易に「がんばれ」と投げかけることと大きく違わない。言われた直後は、コトバの暗示で効果があるかもしれない。でも、それが当事者たちの勇気にまで昇華するだろうか? 強いというコトバのままに行動できたとしても、ふつふつと浮かんでくる不安に必ず押し返されるだろう。また、「ダメなら帰ってくればいい」という意味も含まれているとしたら、それは「損失」を肯定することにもなり、利益を目的とした健全な企業活動の原則にもそぐわなくなる。

佇まいは、引き算ができていて受け入れやすく記憶しやすいコトバではある。でも、その分もったいないのは、実態や原則を調べつくしていないというところ。ただ焚きつけるだけのコトバは、受け手のベネフィットに繋がらない。

ベネフィットを約束できなければ、コピーとは言えない。

「コピーの学校」等で行う私の講義を受けている人なら、何度も確認させられる基本条件。この基本の大切さを、改めて考えさせてくれるサンプルと言えるのではないでしょうか。

※作品の版権・著作権等の使用に関する権利は、静岡コピーライターズクラブに帰属します。
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