【作品レビュー#1】魅力的な主人公と悪役
最近見た作品を咀嚼するためのブログ。
今回のテーマは「魅力的な主人公と悪役」について。
早速いってみよう。ネタバレ注意。
映画「すずめの戸締まり」
新海誠監督の最新作。主人公の岩戸鈴芽が「閉じ師」を自称する宗像草太と共に、全国各地に存在する地震の元凶である扉を閉めるロードムービー。
鈴芽自身も震災によって両親を失っており、地震を防ぐ仕事には深い使命感を持っている。物語が進むにつれて自身の過去と向き合い、成長する。
良かった点は、新海誠監督の圧倒的な演出力。事情や人物の感情を間接的に表現する技量はピカイチだし、光景の見せ方も上手かった。途中、草太が椅子に変身させられてしまうのだが、”椅子とJKが旅をする”っていう設定ならではのやりとりが満載で、本当に想像力豊かな人なんだなと感心した。
ただし、本当に鈴芽は魅力的な主人公だったか。個人的には首を傾げざるを得ない。この物語で鈴芽は過去の辛い記憶を受け入れ、自分の人生を生きることへの覚悟を新たにし、おまけに草太さんとラブラブ(な予感)になるわけだ。
この変化がいまいち劇的じゃないように思う。あまり心を動かされなかった。原因は恐らく、鈴芽の初期状態が十分に描写されていなかったことにあると思う。彼女は両親が亡くなってしまし、叔母と生活している。その現状に対してどのような不満があるのかが十分に観客へ示されず、共感できる主人公に仕上がらなかったのではなかろうか。(実際私は、鈴芽ちゃんを見ている時「かわいいな〜〜」くらいしか思わなかった)
ここから得られる教訓としては、主人公の欠点や心の傷を示さないと観客を引き込むことができない、というところだろうか。
映画「ゴールデン・エイティーズ」
パリを舞台に、高級ブティックの経営者一家や美容院の娘たちなど、その街で生活するさまざまな人々がおりなす恋愛模様を、ベルギーの女流監督シャンタール・アッカーマンがコミカルに描き上げたミュージカル・コメディ。1986年公開。
みんながみんな、一途な女や妻などといった「真剣に付き合うべき人」を持っているはずなのに、尻軽女や人妻なんかに手を出したくなってしまう。そんなどうしようもない人間の性がひたすらに描かれていた。
どうしてそんなことになってしまうんだろうか。「恋愛は不幸しか産まない」というセリフにも現れているように、本当に好きな人と恋愛をしてしまうと、それ以外の物事がうまくいかなくなり、結局破滅してしまうから...…なのかな。みんなコロッコロ心変わりするもんだから、劇中に何度も「マジかよ」って思っちゃった。
映画「サイコ」
1960年に公開された、ヒッチコック監督によるサイコスリラー映画。ベイツモーテルを訪れた人が悉く音信不通になる謎に迫る。
ベイツモーテルはノーマンという一人の青年によって運営されていた。実は彼、10年前に母親とその愛人を殺害しており、それをきっかけに自分の人格の半分を母親に乗っ取られていた。ベイツモーテルを訪れた人を殺していたのは、母親の人格だった。
ノーマンはとっても魅力的に描かれていた。序盤では彼の趣味が動物の剥製を作ることで、このモーテルこそが彼の全てだと確信していることが明かされる。この時の彼の仕草もまたほんのりと狂気っぽくって良かった。ふとした瞬間に人を殺めてしまいそうな不安定な顔、素朴な顔よ。
魅力的な悪役の条件として「異様な執着」と「悲しい過去」があるのではないかと思う。前者は言い換えれば「貫徹行動」。つまりキャラクターの行動理念が一貫しているということだ。後者は観客の共感を誘う。
ついでに「趣味がある」こともここに入れておきたい。悪役の趣味ってだけで、チャーミング...…なんとなく。
母親殺しを否定するために人格を取り込んだ切なさ。終いには母親に人格を全て乗っ取られる切なさ。痺れました。
映画「グリッドマンユニバース」
雨宮哲監督による怪獣ロボット映画。六花ちゃんに会いたくて見た。あと友達から誘われたから見た。
特撮は普段見ないジャンルだけど、戦闘シーンは色々動きに工夫があって面白かった。作画や声優ともに抜群で雰囲気も良い。
序盤の物語の運びも悪くなかった。小道具や人間の細かい仕草を用いた人間関係や心情の描写も上手い。一番印象的だったのは、主人公が六花ちゃんを遊びに誘おうとしたが失敗してしまった時。窓の外に倒れたコーンが一本置いてあったのに痺れた。いいねぇ! こういうやり口! 参考にさせてもらうよ。
ただ、それが最高点だった。物語中盤から終盤にかけては恐らく監督のやりたいことがひたすら暴走していた印象。エヴァかよ。
悪役に関して言えば意味不明。理念が先行してしまって、悪役が全く魅力的じゃないし、憎むこともできない。これじゃあ主人公も応援できないし、打ち勝った時の達成感もないよ。
アニメ「サイコパス」
虚淵玄さん脚本のSFアニメ。一期の第九話まで見た。
いいセリフもちょいちょいあった。ストーリーにテーマが自然に内包されていて、立ち上がっていたと思う。ただ、ストーリー進行に引っ張られ過ぎていて、キャラが薄くなっていたのが残念。絵としての見せ方もそこまで印象的じゃなかった。工夫がない。世界観はとても良かったので、焦らずに人物を描いてほしい。
演劇「8人だけ〜」
劇団ダブルデックによる2017年の公演。
アパートの八階が異空間に飛ばされて、取り残されてしまった8人の個性豊かな入居者たち。それぞれの人物には現状に満足できないという密かな悩みがあって、それを自覚し変わりたいと思った者から脱出していく。まさに人生の「引っ越し」と言うわけだ。
もう、とにかく踊る。音楽照明マシマシ。登場人物も演劇的にキャラクター化されていて、人間ドラマという味ではない。でもとにかく次々と人が変化する、弾ける、元気になる、また踊る。そんなエネルギッシュな芝居でした。物語性を超えた不思議な感動を得られました。
作・演出を担当されたゴロ六郎さんとお話しする機会があったのですが「演劇はスポーツ。40代から50代のおじさんおばさんが頑張っているところを見て、応援してほしい」と言っていたのが印象的。
テレビドラマ「Dr.チョコレート」
天才外科医である十歳の少女が闇医者として、訳あり患者の医療行為を行う。その理由は二年前に両親を殺した犯人への復讐だった、という筋。一話だけ視聴。
Dr.チョコレートへの報酬は「一億円前払い、秘密厳守、とそれなりの量のチョコレート」という文句に代表されるように、「子供だけど天才外科医」このギャップで勝負している。魅力的な主人公の基本である「短所+長所」の定型を踏んだ良い設定ではなかろうか。
ただ、話の筋がとんとん拍子すぎてご都合主義感が否めなかったのと、カットが全体的にバラエティ番組感満載だったのがいただけない。
テレビドラマ「ラストマン -全盲の捜査官-」
どんな事件でも彼が捜査すれば全て解決する、Lastmanこと全盲のFBI捜査官。どういう理由か来日して捜査を行うことに。大泉洋とタッグを組んで犯人を追い詰める。一話だけ視聴。
セリフのセンスがとても良かった。10歳で盲目になった彼が「思春期には、ヌード雑誌を見ておくべきだったと後悔しています」のグルーブ感が秀逸。物語の最初と最後で、車の座席や食事の机の位置どりが近づいている、などといった小道具の使い方も効果的。
こちらも「全盲だけど最強の捜査官」、つまり「短所+長所」の定型を踏んでいるね。
思ったんだけど、第一話の最後に過去の事件を匂わせるというのはテレビドラマの古典芸能なんじゃないか?
テレビドラマっていうメディアの特性上、来週も見てもらわなくちゃいけないから「来週はどうなるの!?」的なノリが必ず必要だからね。第一話は特にそう。第二話も見たいと思います。
終わりに
続けるかどうかはわかりません。インプットの質を上げるにはアウトプットの量が大事ってのはわかってるから、まあ、来月もやるんじゃないですかね。
〈了〉