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【シナリオ】両片思い、始めの一歩。
〇文化祭 後夜祭中 屋上
校庭がにぎわっている中、ひとりその様子を上から眺めている琴。
陸、屋上に上がってきて、琴を見つける。
話しかけようか迷っていると、琴が振り向く。
琴「あれ、りっく!」
陸「え、あぁ、おう。」
陸、琴の隣に渋々向かう。
琴「どしたの、行かないの?下。」
陸「うーん。疲れた。」
琴「あー。」
陸「白井もでしょ?」
琴「うん。走り回ったからねぇ、今日一日。」
琴は制服ではなく、白いブラウスにピンクのレーススカートを身に纏っていた。
陸は見慣れないその姿が気になり、ばれないように横目でチラチラと見る。
琴「ね、どうだった?」
陸「え?」
琴「ダンス部だよ。大ホールの。」
陸「ああ、うん。あの、良かったよ。」
琴「ほんと!?」
陸「なんかすごい、みんな揃ってたし。」
琴「私は!?てか、私見つけた?」
陸「見つけたよ。」
琴「おお、なんか嬉しい。」
陸「さすがに白井はわかる。」
琴「で、どうだった?」
陸「…ダンスのことは俺あんまりわからないけど、」
琴「うん。」
陸「その…指先とかきれいで…、あ、あと表情がその、良かった、かな。」
琴「えー、マジ。それは、嬉しい。」
陸「言われ慣れてるでしょ。」
琴「慣れてないよ。」
陸「ほんとに?」
琴「うん。いや、もし慣れてたとしても、りっくに言われるのは特別嬉しいかな。」
陸「…なんで?」
琴「え。」
間。
琴「あー、なんと、なく。ほら、あんま見てもらったことないし、率直に、あんまダンス知らない人からの意見は、新鮮で嬉しい。」
陸「そういうもんなんだ。」
琴「そういうもんよ。ふふ、よかった。しつこく見にきてって言っといて。」
陸「ほんとにしつこかったもんね、マジびっくりしたよあん時。」
琴「ごめんごめん。でもどうしても来てほしかったから。」
陸「あんな念押しされなくても行くって。」
琴「…そっか。」
沈黙。
琴「…ねぇ、なんかワクワクしない?」
陸「なにが?」
琴「校庭はお祭り騒ぎでさ、こんなに盛り上がってんのに、私たち誰もいない屋上で二人なんだよ?」
陸「うん。」
琴「変だよね(笑)」
陸「変、だけど…、それがワクワクするの?」
琴「なんか、楽しい。秘密の集会、みたいな。」
陸「ひみつの集会?(笑)」
琴「してみる?」
陸「…いいよ?」
琴「よし。ではこれから、秘密の集会を始めます。」
陸「はい。」
琴「よろしくお願いします。」
陸「…おねがい、します。…?」
琴「…好きな人いるん?」
陸「えっ。」
琴「え?」
陸「え、いや、急だなと…。」
琴「ぽくない?秘密の集会っぽくない?」
陸「うん。まぁ、ぽい、ですけれども。」
琴「気になる!陸のそういう話!」
陸「キラキラした目で見ないで…。」
陸「…いる、けど。」
琴「(声にならない声を出す)…!!!! え、3組?」
陸「…(頷く)」
琴「ま、ま、まじか…。」
陸「…え、どういう反応それ。」
琴「いや、だって、身近にいるのはちょっと、動揺と言いますか。」
陸「白井は?」
琴「ノーコメント。」
陸「秘密の集会。」
琴「ノーコメント!」
陸「俺は答えたのに。」
琴「…いるよ。」
陸「3組?」
琴「…うん。」
陸、校庭にいる一人の男子を見る。
陸「それって、さ、…その人って今、後夜祭出てる?」
琴「え?」
琴、陸を見る。
琴「いや、…出てない、と、思うよ。」
陸「まじ!?」
琴「うん。」
陸「え、あ、そう、なんだ。」
琴「…うん。」
陸「…園部かと思った。」
琴「はぁ!?なんで。」
陸「いや、なんかいつも話してるじゃん。」
琴「ないよ、あんなデリカシー無いサル。」
陸「めっちゃ言うじゃん。」
琴「内緒ね。」
陸「そりゃまぁ、うん。」
琴「りっくの好きな人は?出てる?後夜祭。」
陸「…いや、出てない。」
琴「断言。」
陸「あ、いや、で、出てないと、思う。」
琴「何で何で?」
陸「えー、い、いや、今この上から見当たらないし。」
琴「見当たんないだけかもしれないよー。」
陸「それはないよ。」
琴「断言。」
陸「おそらく。」
琴「私たちがこっから下にいる人見えるってことはさ、校庭の連中も、私らのこと見えてるのかな?」
陸「あー。どうだろう。皆目の前に夢中で上なんか見ない気もするけど。」
琴「もし見えてたらさ、どうする?」
陸「どうするって?」
琴「噂されちゃうかな?『立花陸と白井琴、後夜祭を抜け出し屋上で夜のデートか!?』みたいな文春砲撃たれちゃうかな?」
陸「その際はぜひ目元は隠してほしいね。」
琴「写真もあるんだ。」
陸「黒線でね。」
琴「そんな風に噂されたら、陸はどう思う?」
陸「どう?」
琴「うん。」
陸「うーん。…。」
間。
琴「でもそれは迷惑か。」
陸「え?」
琴「陸には好きな人がいるんだもんね。」
陸「いや、それは白井だってそうでしょ。」
琴「私は別に。」
陸「え?」
琴「別に。」
陸「え、なにが。」
琴「あー。はぁ。陸とならどんな噂立てられてもいいかなって。」
沈黙。
ひんやりとした風が吹く。
琴「暑いな。」
陸「え?」
琴「…そろそろ誰か聞きたいな、好きなひと。」
陸「…こ、これは、言う流れ?」
琴「うん。」
校庭からは、騒がしい生徒の声と、キャンプファイヤーの炎の音。
突然、マイムマイムの音源が鳴り始める。
陸「あ、マイムマイム。」
琴「話逸らすなしー。」
陸「マイムマイムのさ、歌詞知ってる?」
琴「え?歌詞?」
陸「うん。」
琴「マイムマイムマイムマイム、マイムえっさっそ♪」
陸「えっさっそ?」
琴「えっさっそ。え、えっさっそでしょ?」
陸「いや…えー、えっさっそ?えっさっそなのかなぁ…。」
琴「…逸らしてるでしょ話。」
陸「…。」
琴「イニシャルは?」
陸「内緒。」
琴「名字の!」
陸「内緒。」
琴「なんで!」
陸「恥ずかしいもん。」
琴「何が”もん”だ、かわい子ぶっちゃって。」
陸「ぶってねーし!じゃあ白井言ってみてよイニシャル。」
琴「R。」
陸「お、お、おお…。」
琴「何その反応。」
陸「いや、言うと思わなかったから。」
間。
琴「で?」
陸「…K。」
琴「名字?」
陸「名前。」
琴「…へー。」
間。
琴「で、誰?」
陸「だから言わないって。」
琴「ぬぁんでよここまで言ったのに!」
陸「色々あんの色々。そんな簡単に言えないの。」
琴「私誰にもばらさないよ?本人にも言わないよ?」
陸「それでもだよ。」
琴「ええ…。」
間。
琴「私さ、」
陸「うん。」
琴「好きな人にしか、ダンス見にきてなんて言わないんだよね。」
間。
少し強めの風が吹き、琴の髪が乱れる。
琴シャンプーの香りが、ふわりと漂う。
陸「…。」
琴、陸を上目遣いで見つめる。
陸「…俺も好きな人のじゃないとダンスは見に行かないかな。」
琴「…それって?」
陸「ん?」
琴「それって?」
陸「いや、それだけ。」
琴「はぁぁ????」
陸、屋上の出口の方に向かい始める。
陸「そろそろ混じろうかな。」
琴「え、後夜祭?」
陸「うん。」
琴「え、行くの!?」
陸「マイムマイムの歌詞気になるから。」
琴「だから”えっさっそ”だって。」
陸「白井のは空耳アワードだよ。」
琴「なにそれ。絶対そうだもん!私これで17年間生きてきたんだよ?」
陸「まぁ支障はないからね。」
琴「冷たい!私命かけられるよ”えっさっそ”に。」
陸「はいはい。」
琴「つーめーたーいー!!!!もう、りーーーくーーーーー!!!!」
琴、陸の方に走って向かう。
二人じゃれあいながら、笑いあう。
キャンプファイヤーの煙が、屋上まで届く。
おしまい