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【短編小説】埋没家

【短編小説】埋没家

 しばらくの間、私たちは隣のRの家で生活をすることになった。理由は私たちの家が地中に埋まってしまい、掘り出すのに時間がかかるためだった。
「いや、災難だったね。君たちに怪我がなくてよかった」Rは突然押しかけた私たちを快く受け入れた。
「いやはや、本当にすみません。業者に聞いてみたところ、二、三日で掘り出せるとのことだったので、それまでは是非とも……」
「いやいや構いませんよ。こういう時は持ちつ持た

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【短編小説】雨漏りカエル

【短編小説】雨漏りカエル

 男は雨がすこぶる嫌いであった。そのため雨の日になると会社を休み、自宅でゴロゴロと過ごすようにしていた。特に何をするわけでもなく、ただただ雨が降る中外に出たくないという理由で家にいるのである。

 そして先日、梅雨入りがニュースで発表され、男はまとめて有給を取ることにした。朝、いちいち上司に休みますと連絡をするのも面倒くさく、だったら前もって梅雨の間はまるごと休むことにして、ゆっくりと過ごそうとい

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【短編小説】優秀な部下

【短編小説】優秀な部下

「全班、異常ありません」

「よし、そのまま各班全力を尽くしてくれ」

「了解」

 無線機で全班に指示を出したところで、私は席に着く。遊園地のフードコートは、休日のお昼時ということもあって人の数が多い。

「パパ、お水持ってきたよー!」娘の美奈が水の入った紙コップを両手に持って、テケテケとこちらに走ってくる。愛らしい姿だ。つい最近まではハイハイも出来なかったのに、今では立って走ることができる。そ

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【短編小説】宝くじ研究会

【短編小説】宝くじ研究会

 とあるビルの会議室に、数十人の人々が集められた。部屋の前方にあるホワイトボードには、『宝くじ研究会』と大きく書かれている。

 彼らが集まった目的はただ一つ、宝くじにおける高額当選番号を自分たちで計算し導き出し、その理論を確立させ大儲けしようというものだった。

 数学者、物理学者、天文学者、心理学者など学者と名の付く人間は片っ端から集められた。その他にも、競馬や競輪、パチンコなどの博打で今まで

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【短編小説】イエローカード

【短編小説】イエローカード

 とある雨の日の夜、僕は近所のコンビニに向かっていた。

 じめじめとした空気が夜の街を包み込み、若干のけだるさと憂鬱さを演出している。頭上から聞こえてくる雨とビニール傘のこすれる音が、うざったくて足取りを重くする。

 コンビニに到着し、店内に入る。

 店内には僕以外に客が一人と、レジに店員が一人。住宅街のど真ん中にあるこのコンビニは、いつも客数が少ない。

 まっすぐ、お弁当コーナーを目指す

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【短編小説】人参

【短編小説】人参

「人参ほど過大評価されすぎた食べ物ってないと思うんだ」腕を組みながら、ため息を漏らすように山田は言った。

「人参に謝れ」

「いやだって考えてもみろよ。あれそんな美味いか? 美味くないだろ。それなのにこんなに世間に浸透しているのはどうにも納得がいかないんだよ」

 大学の講義中だというのに山田は教科書も筆記用具も出さずに、真面目にノートをとっている僕にペラペラと話しかけてくる。そしてテスト前にな

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【短編小説】献幸

【短編小説】献幸

 日曜の昼過ぎ、僕は駅前周辺を歩いていた。特に用事があったわけではないが、貴重な休日を家でゴロゴロするだけではもったいないと思って家を出た。

 駅前にはちょっとした広場がある。そこでは時折イベントが開催されている。

 ふと、その広場に目を向けると、そこには一台の小型バスが停まっていた。小型バスの前ではプラカードを持った女性が道行く人に声をかけている。

「ケンコウにご協力くださーい! 今なら待

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【短編小説】えんがちょ

【短編小説】えんがちょ

 右手の人差し指と中指を交差させる。カラスの羽に向かって「えんがちょ!」と大きな声で叫べば、カラスの羽と美奈の縁は切れる。黒くて汚くて、不吉な意味を持つカラスの羽を見たら、すぐにえんがちょをしなければならない。おじいちゃんから教わったように、毎回欠かさずにこのおまじないを行う。

 映画に出てきた手足の長いキャラクターは、違う方法でえんがちょをしていたけれど、おじいちゃん曰く美奈が教わった方法のほ

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【短編小説】スイカ

【短編小説】スイカ

 見た目というのは、かなり重要な要素といえる。

 例えば人間の容姿において、見た目がもたらす効果は大きい。見た目が美しいほうが他人から好かれやすいし、何かと優位に立つことも多いだろう。

 一方で容姿が醜くかったり、特徴を持たない人は誰からも相手にされないし、何かと劣等感を感じるシーンがあるのではないだろうか。

 女性は必死に化粧をし、男性から好かれようと努力する。中には整形をして、人生を豊か

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【短編小説】なんでもなる木

【短編小説】なんでもなる木

 都会から離れた山奥の小さな村に、ちょっと変わった木が一本生えていた。村の中心に生えたその木には様々な果物がなっていた。りんご、かき、みかんなど季節に関係なく、一年を通して色鮮やかに実を枝につけ、そこに立っていた。

 村の人々は基本的に畑での農業を生業としていたが、台風などの自然災害によって不作の年には、その木から果物をとって生活をしていた。
しかし果物はいくらとっても減ることはなく、むしろ年々

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【短編小説】ウルトラヒーローの憂鬱

【短編小説】ウルトラヒーローの憂鬱

 ウルトラヒーローの朝は早い。片道一時間半の職場に向かうため素早く着替え家を出る。朝飯は食べない派だ。

 ウルトラヒーローが普段何をしているのか。結構みんな知らないかもしれないからここで教えてあげようと思う。

 普通に仕事してる。サラリーマン。

 これ言うと結構驚かれるんだけどね。そりゃあそうだろって話。生きてくためにはお金を稼がなきゃいけない、社会のルールだ。

 ヒーロー活動なんてこれっ

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【短編小説】傘

【短編小説】傘

「傘ほど進化を怠っている種族はいないと思うんだ」眉毛を釣り上げながら山田は高らかに言った。

「なにが」

「だってそう思うだろう? 太古の昔から人類を苦しめている雨を防ぐことはどんなことよりも優先順位は高いはずなんだ」

「そんなことないと思うけど」

 そんなことあるんだよ、と山田は目の前のスパゲッティにフォークを絡ませ口に運ぶ。

 大学の学食はまだ一限終わりということもあって僕たち以外に人

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